レアなサイズのミシュラン TRXを海外から個人輸入。旧車部品はどこまで自力調達できるか?

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旧車オーナーにとって共通の悩み。それは維持費や劣化、あるいは保険など、数え上げればキリがありません。なかでも最大の悩みとして、部品調達を挙げる人は少なくないと思います。筆者も先日、旧車の部品についてやむなく自力調達したことがあったので、その体験談をまとめてみます。

少しだけ光明が見えてきた日本の旧車部品供給

一部の輸入車ブランドを除けば、これまで旧車の部品供給は基本的に厳しい状況に置かれていました。乗り続けたいと思っても部品の入手が困難で、泣く泣く愛車を手放した人は少なくありません。

そんな状況の中、マツダはNAロードスター、日産自動車は関連企業と協力してR32型スカイラインGT-Rの部品供給に踏み切るなど、長く乗り続けたいオーナーに向けたサポートが開始されています。タイヤメーカーでは、ヨコハマタイヤが往年の「ADVAN HF Type D」を復刻するなど、旧車オーナーにとって歓迎すべき動きがありました。

ミシュラン TRX 個人輸入 旧車 クラシックカー

とはいえ、多くの旧車オーナーが部品供給に悩んでいることに変わりありません。特にタイヤはオリジナルが入手できないことが多く、代わりに履いたタイヤによって雰囲気が変わってしまうこともあります。こだわりがなければ悩みもないのですが、旧車オーナーは基本的にこだわり派が多いので、部品に対する悩みは尽きません。

ミシュラン TRXの光と影

筆者が所有しているクルマは、シトロエン BX 4TCという1986年式の車両。シトロエンがWRC(世界ラリー選手権)のホモロゲーションを取得するため、当時のグループB規定に合わせて製作したモデルです。

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2007年に購入してから10年が経ち、走行距離は10年で8,000 kmほど。購入当初はさまざまなトラブルに見舞われたものの、数年前からまったくのトラブルフリー。トヨタ・セリカ GT-TSやダイハツ・シャレード 926ターボと並び、実はもっとも財布にやさしいグループB車両ではないかとさえ思えるほどです。

とはいえ、ひとつだけ気がかりなことがありました。それはタイヤのひび割れです。購入時に日本で新品のタイヤを装着して以来そのまま履き続けていたため、サイドウォールにひび割れが生じていました。いつか交換しなければと思いながら、ずっと先延ばしにしていたのです。

価格の高さも交換を先延ばしにしていた理由のひとつです。シトロエン BX 4TCのタイヤ/ホイールは、当時のシトロエン CX25 GTi ターボIIと同じものが装着されています。そのタイヤサイズは210/55 VR 390、ホイールサイズは150 TR 380 FHというもの。この一般的でない表記は、ミシュランが1975年に開発した初の偏平タイヤ「TRX」の専用サイズ。一般的なインチ表記ではなく、ミリ表記となっていました。また、そのサイズと形状に合わせて、ホイールも専用サイズとなるのが特徴でした。

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▲オーナーズマニュアルの諸元表にはタイヤ/ホイールサイズが記載されている

「TRX」は当時の超高性能タイヤとして、フェラーリ 512 BB、ルノー 5 ターボ、BMW M635 CSiなどの高性能モデルに装着され、グループB車両のプジョー 205 ターボ 16にも採用されました。しかし、ミシュランが提唱したミリ表記はその後普及することなく、インチサイズの一般的なホイールが使えない「TRX」は次第に姿を消していきました。

そんな状況ながら「TRX」を装着した当時のスポーツカーは現在も少なからず生息しているため、ミシュランは「TRX」を現在も生産しています。ただ、価格はそれなりに高価で、シトロエン BX 4TCの210/55 VR 390サイズの場合、メーカー希望小売価格は1本あたり48,000円。4本交換するとほぼ20万円になるため、気軽に交換するというわけにもいきません。

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▲ミシュラン TRXは現在もフランスで製造される

気づいたら広がっていたタイヤの亀裂

ところがある日、エンジンを掛けるためにガレージに行き、ふとタイヤを見たところ、左フロントタイヤのサイドウォールに亀裂が入っていることに気づきました。以前から発生していたひび割れが着実に成長していたのです。

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これを機に、もっと入手が容易で価格もリーズナブルな別のタイヤ/ホイールに履き替えるという選択肢もありました。その場合、オリジナルのタイヤ/ホイールは、イベント時に限定して装着するという方法です。しかし、通常の姿がオリジナルでなくなることに抵抗があり、実際問題としてイベントのたびにタイヤ/ホイールを履き替えるのもかなり面倒です。いずれにしても10年以上使用して亀裂が入ったタイヤは交換が必要なため、意を決してミシュラン TRXを探すことにしたのです。

国内在庫ゼロ。そして…

まずは日本のネットショップをチェックしました。すると、輸入車に強い都内のタイヤショップにリストがあったので、電話で問い合わせてみました。しかし、当然ながら自社在庫なし。そこで日本ミシュランタイヤに問い合わせしてもらったところ、国内在庫はないためバックオーダーになるという回答がきたのです。

「TRX」のようなクラシックカー用タイヤは、世界中からのオーダーが一定数まとまれば都度生産するという商品なので、もちろん入荷時期は未定。入荷するのが3ヶ月先なのか、あるいは数年後になるのかも分からない状況。特に210/55 VR 390というサイズは、「TRX」のなかでも飛び切りレアなサイズのようで、次回生産時期は見当がつかないというのが実情でした。

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ベストシーズンに向けてイベント参加も計画していたのに、このままではまったく出動できません。そればかりか、下手をするとこのまま数年間にわたって不動車になってしまう可能性もあります。せっかく夏前に1年点検も終えてタイヤ以外のコンディションは完璧なのに、この状況はまったく耐え難いものでした。そこで国内調達をあきらめ、海外に目を向けてみました。

海外オークションでタイヤを個人輸入

早速、海外オークションのeBayをチェックすると、わずか数件ながら海外発送可能なイタリアやスペインの出品者が見つかりました。価格は日本と大差ないか、むしろ高いものさえあり、全体的に強気の価格設定です。しかし、今もっとも重視すべきは価格云々ではなく、世界中の誰よりも先に在庫を押えること。そこでもっともリーズナブルだったスペインのミシュラン・クラシックの総代理店から購入することに決めました。

海外からタイヤを買うのはもちろん初めてなので、補償について尋ねました。すると、価格に2%を上乗せすれば保険が付けられるという回答がきました。ただ、FedExで海外発送をしているこの業者によれば、1991年から現在までタイヤが完全紛失した例は1度もないとのこと。そこで保険は付けずに注文を確定。すると翌日にはFedExからタイヤの出荷通知が入りました。

タイヤは持ち込み交換

到着を待つ間に、今度は持ち込みでのタイヤ交換を引き受けてくれる専門店を探します。
「TRX」は特殊な部類のタイヤであるため、日本ミシュランタイヤの公式ページに掲載されている販売店から探すことにしました。さらにタイヤの亀裂を鑑みて、高速走行が必要な店舗を避け、下道で行ける近場の店舗を探しました。

その結果、東京都江東区の「シノハラタイヤ」さんに問い合わせることにしました。理由は距離が近いことに加えて、装着店舗情報のコメントに「※プジョー・シトロエンの一部特殊なホイールもバランス作業可能です。」のコメントがあったこと。事情を説明すると快く引き受けてくれたため、交換作業についてもクリアになりました。

その数日後には、念願のミシュラン TRXが無事に届きました。スペインの出荷からわずか3日で自宅に到着したのは驚きでしたが、もっと驚いたのはその荷姿。段ボールや梱包材などは一切なく、タイヤ1本1本に荷物ラベルが貼付され、むき出しのまま4個口で届けられたのです。

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▲このままの姿でスペインから日本に到着

タイヤを玄関に置いておくと妻から小言が出そうなので、すみやかに自分のクルマに積載しました。シトロエン BX 4TCの大きなメリットは、ベース車両であるシトロエン BX 譲りの実用性が確保されていること。ダブルフォールディング式のリアシートをたたむと、リアに巨大なラゲッジスペースが生まれるため、4本のタイヤが楽々収まります。

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念願の新品タイヤ装着

タイヤが予想外に早く到着したため、タイヤ交換作業の予定も前倒しになりました。ただ、装着店舗の「シノハラタイヤ」さんまでは自走する必要があります。そこでサイドウォールの亀裂が広がらないよう運転操作に細心の注意を払い、路面の凹凸もできるだけ避けながら運転しました。このドキドキ感は、冷却ファンが故障したときに、オーバーヒートさせないようエンジン回転を極力上げないようにして主治医の元まで走行したとき以来のこと。こうしてなんとか無事に到着し、ようやくタイヤバーストの恐怖から解放されました。

到着後すぐにタイヤ交換作業が開始。まずは車両をリフトに載せて、タイヤを1本1本手際よく外していきます。

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亀裂の入った問題のタイヤを改めて見てみたところ、内側にダメージはありませんでした。とはいえトレッド面にもひび割れがあり、今回交換したのは正解でした。「TRX」は高価なタイヤなのでギリギリまで交換を遅らせていましたが、10年間無交換でも遜色ない性能と高い耐久性を発揮してくれたことを思えば、むしろ安いといえるのかもしれません。こうしてタイヤ交換作業は1時間ほどで終了し、安堵してガレージへ戻ったのでした。

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▲タイヤチェンジャーを使ってタイヤの脱着作業が進んでいく

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▲専用の計測機でホイールバランスを測定し、ウェイトの位置と重量を確認。位置と重量が正しい場合は「OK」表示になる

タイヤを個人輸入するメリットとは?

今回は入手困難なタイヤをすぐに交換したいという目的のため、思い切ってタイヤの個人輸入というはじめての選択をしました。実際に探しはじめてからタイヤ交換まで2週間で完結したことを考えると、クラシックカー用タイヤを自力で手配するメリットはそれなりにあるかと思います。

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ただ、プロの業者ではない素人が海外の業者と直接やりとりするのは、問題が起きたときの対応が非常に面倒なのも事実です。安心感でいえば、例えば福岡県の「村上タイヤ」さんのように、クラシックカー用タイヤの海外メーカーと直接取引をしているような、豊富なノウハウを持つ専門ショップにお願いするのがベストでしょう。

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ちなみにかかった費用は、日本の正規代理店でミシュラン TRXをタイヤ交換した場合とほぼ同じか少し高い程度。価格的な安さはありませんでした。

後日談としては、タイヤ交換を終えてから3ヶ月ほどしたある日、最初に問い合わせをした都内のタイヤショップから「TRX」の供給が可能になったという連絡が来ました。今回の場合、結果的に3ヶ月ほど待つことができれば、正規ルートで入手できたのです。

タイヤ交換は、やはり余裕を持ったスケジュールで計画するのがベストといえるでしょう。

[ライター・画像/北沢剛司]

【取材協力】
■シノハラタイヤ株式会社
公式サイト:http://www.shinohara-tire.co.jp/

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北沢 剛司

’70年代のいわゆる「スーパーカーブーム」の洗礼を受け、以来、クルマの世界にどっぷり浸かって大人になってしまった自動車ライター。ニューモデルを見るため20年以上ジュネーブ・モーターショーに通う一方、所有したクルマは’80〜’90年代のネオクラシックカーばかり。さらにミニカーやカタログなどの自動車趣味からモータースポーツまで、興味の対象は幅広い。自動車専門誌や一般誌での執筆をはじめ、輸入車関係の仕事などを幅広く手がけている。

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