アタリのエンジン、ハズレのエンジンは本当にあるのか?

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同じクルマを乗り比べると乗り味をはじめ、音、振動の出方、あるいは燃費等が微妙に違ってくるということがあります。自分のクルマが調子の良いアタリならウレシイですが、ハズレと判明した日にはとても悲しい気分になるでしょう。

しかし、アタリ車と比較してハズレと思われたとしても、よほどでない限り不良品とは判定されませんからディーラーに掛け合っても保証の対象とはなりません。では、そもそも本当にアタリ、ハズレがあるんでしょうか? まあ、ハズレというと語弊がありますが、エンジンを分解してみると1基のエンジンの中でもバラつきがあり、それがトータルの出来に影響すると推測される場合もあります。

エンジン次第で、スピードの乗り方が全然違ったことも

アタリのエンジン ハズレのエンジン
▲エンジンの主要部品。奧がシリンダーブロック、手前左がピストン&コンロッド、手前右はシリンダーヘッド(トヨタ4A-GE 20V)。

まず筆者自身が経験した性能的な個体差だと、ノーマル車を使用する某ワンメイクレースで同型車2台を乗り継いだときに、スピードの乗り方が全然違ったことがありました。例えば筑波サーキットの第1ヘアピンに進入する直前を比較すると、アタリの方は3速でレブリミットに当たりそうになるまで吹け上がるのに、ハズレの方は200rpmほど余してしまうのです。第2ヘアピンの手前でもアタリの方は4速まで入りますが、ハズレは3速で引っ張りっぱなしということが多かったです。この場合のハズレとは、パワーが無く回らないエンジンです。

街乗り、峠で飛ばす程度ならほぼ分からないレベルの差ですが、ワンメイクレースでこんなに差があったら勝負になりません。もちろん、いろんな技量の人が出る入門レースだと、ストレートで分が悪いとしてもコーナーワークで逆転するということはいくらでもありますが、アタリのエンジンがいいのは言うまでもないことです。そのアタリのエンジンはいわゆる頭打ち感がなく、とても気持ちよく走れました。しかし、残念ながら売却され、その後同じフィールのエンジンに出会うことはありませんでした。

耐久面で個体差が出ることもあります。カメラマンの知人は以前某ステーションワゴンで年3万km以上を走っていました。新車購入後、オイル交換などの基本メンテナンスを欠かさず実施していたのに、10万kmを過ぎてからの車検後まもなくしてエンジンが壊れてしまいました。整備ミスなのか単なる故障かという点でモメたそうですが、最終的には新しいエンジンに交換されました。そうしたら、最初のエンジンに比べて段違いに静かでスムーズ、加速の回転上昇も全く違い、燃費も良くなったりと別のクルマのようになってしまいました。そこから更に10万km以上乗りましたが異常はでませんでした。

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▲シリンダーブロックの上面にある数字。これはシリンダー径の区分を示しているが、同じシリンダーブロックでも1や2があり、わずかな寸法差があることを示している(日産VG30DETT)。

これらは、恐らくアタリとハズレの両極端な例だと思いますが、ある程度のバラつきは存在します。なぜそうなるのか?の真実はメーカーの技術者レベルでないと分からないでしょうが、今回は個体差が起こる幾つかの要素を挙げてみたいと思います。

エンジン1基の部品にもバラツキが存在する

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▲ピストン上面にある刻印。向きを示す矢印の後ろにある数字がピストン径のグレードでこれは1〜3番中の2番。1番なら80.895-90.905mm、2番なら80.905-80.915mm、3番なら80.915〜80.925mmという分類だ(トヨタ4A-GE 20V)。シリンダー内径の数字に合うピストンを選択する。

エンジンを分解してみると、同じ部品でも寸法、重量、仕上がり、機械加工部のズレなどがあることが分かります。例えば、4気筒の16バルブエンジンがあったとすると、4組のピストンとコンロッド、吸排気で各4本のポート(ガスの出入りする通路)に16個のバルブが付いています。特に鋳造や鍛造で作られて一部に型の形状がそのまま残っているピストンやコンロッドには寸法や重量、形状の差が存在します。部品表面全てを機械加工したり、鋳造法を精密なものにするなどすれば精度が上がりますが、手間とコストが掛かるので実際はそこまでできません。

シリンダーヘッドの吸排気ポートはバルブシートと呼ばれる部分との間に段付きがあったり、ひどいものは製造時に溶けた金属を流し込む際の型ズレがあったりします。バルブ自体の個体差は微々たるものですが、バルブが収まっているバルブガイドという円筒状部品の穴の中心ズレが肉眼で分かるものも結構あります。バルブが着座しているバルブシートの高さもバラバラになっていて(大きくても0.1mm程度)、バルブを閉じているスプリングに加わっている荷重も違っています。

燃焼室も容積を量ってみると各シリンダーでバラツキがあり、ピストン上部も微妙な形状差が残っています。つまり、圧縮比が揃っていないことになります。某水平対向エンジンでは、左右バンクでピストンの上死点位置が違うということもあります。

また、アルミダイキャストの部品をみると表面に網目のようなバリが出ていることがあります。これは金型が疲労してきて型にクラックが起きた跡です。金型が新品のウチはキレイな表面ですが、何百何千個と生産しているウチにどんどん表面が荒れるようになります(外側は見た目の問題で性能に影響ありませんが、内側はバリが脱落する懸念があります)。他にも機械加工するドリルやバイトもある規定の使用回数があるので、使用限度になってくると切れ味が悪くなって仕上がりに微妙な影響が出ることも考えられます。

エンジン製造時のバラツキは織り込み済み

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▲クランクシャフトの軸部のグレード表示例。クランク軸(CCBBC)とクランクピン(ZZZZ。コンロッドの大端部が装着される)の寸法がアルファベットで表示される。文字が1種類で揃っていないと言うことは、それだけ寸法差があるということ(トヨタ86用 FA20)。

我々が乗るクルマは大量生産される工業製品ということもあり、生産スピードが最優先事項の1つとなっています。エンジンについても機械加工される部分は、ある程度の寸法差が発生することが織り込み済みになっています。例えば、ピストンの入るシリンダーの内径は仕上がりサイズにバラつきが出るため、1/100mm刻みで3段階程度のグレード(良し悪しではなく寸法の区分)を設けて、それに合わせた寸法のピストンが組み付けられるようになっています。同様のことはクランクシャフトやコンロッドの軸受にも実施されていて、軸と軸穴の仕上がり径も5段階程度のグレードがあり、油すき間(オイルクリアランス)が規定値以内になるように複数サイズの部品を選ぶようになっています。

例えば、直列4気筒エンジンのクランクシャフトには5つの軸があり、シリンダーブロック側にも5つの軸穴があります。そこに軸受のメタル(滑り式のベアリング)が入っているのですが、その厚みをオイルクリアランスが規定値になるようにメタルの厚みを選択して組み付けます。このオイルクリアランスは、狭すぎると回転が重くなったり、最悪は焼付きトラブルになるのですが、広すぎだとノイズが大きくなってしまいます。ピストンも同様で、広すぎだとスラップ音という打音が出てしまいます。

そこで、カーメーカーでは製造時のバラつきをどの程度の範囲に抑えれば良いかを判断するため、実験段階で最良値、最悪値というのを確認しています。オイルクリアランスは、打音、油圧保持(軸からのオイル流出量に影響)、摩擦抵抗(回転の滑らかやさや燃費)、オイル消費(ピストン&シリンダー)、などに連動し、フィーリング的にも非常に大きな影響を持っています。

また、製造時に重量差ができやすい部品では、組立時にバラつきの少ない組み合わせとする場合があります。例えばピストンの重量差は存在するものの1基のエンジンに組み付けるのは2g以内になるようなグループ分けを行うような例です。これを実施していないと、まぐれで重量差が少なかったエンジンはアタリ、単体部品としては合格でも最小値と最大値の組み合わせとなった場合は、ハズレ的な組み合わせとなります。これはメーカーの考え方や品質目標(大衆車or高級車用など)によっても変わると思います。

クランクシャフトやフライホイールのように回転する部品は、回転バランス取りが行われますが、これも量産品では規定の数値以下になればOKという基準であり、個体差は存在します。

組立時にも、個体差の起こる要因が幾つかあります。例えば、カムシャフトとそれを回すスプロケットには、組み付け位置を決めるピンやキーという部品が使われていますが、ピンとピン穴、キーとキー溝には僅かな隙間があり、2つの部品を仮組みして手で揺さぶると結構ガタがあるのが分かります。これがボルトを締める際にわずかに偏ってしまい、バルブの開閉タイミングが基準から変わってくる場合が普通にあります。さらにバルブ系にはバルブクリアランスというのがあり、規定値は0.2mmプラマイ0.02mmといったような値ですが、全部が規定値の中央値にピッタリに揃えばいいんですけど、マイナス0.02,プラス0.02、みたいのが混在すると、各バルブの開閉タイミングが微妙に異なったり、打音の出方も違うので良くないようです。

個体差を極力無くしたい高級エンジンは人の手で組み立てる

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▲シリンダーブロック下側にあるクランク軸受け部の内径グレード。22221となっていて、5番目だけ小さめになっている。

日産GT-RのVR38DETTエンジンでは、全てのオーナーが満足するエンジンを提供するため、匠と呼ばれるエキスパートが、触感など人の感性をフル活用して機械ではまだ不可能なレベルで管理しながら組み立てています。そのようにキチンと組んだエンジンと、そうでないものをプロドライバーが限界走行させると走り方が変わるほどの違いがあるそうです。それはパワーとかトルクの絶対値より、ドライバーの右足の動きにしっかりと応えてくれるレスポンスと信頼感が限界域でのコントロールの差となって表れるようです。匠に伺ったエピソードによると、ニュルブルクリンクでのレースの予選で、調子が今ひとつのエンジンがあったそうです。

その原因を調べたところV6の左右バンクの中央にあるインテークマニホールドの通路がポート側とわずかにズレていて、吸気の流れを阻害していたことが判明! それを修正したところ本来のパフォーマンスを取り戻せた・・・という事例があったそうです。それ以降、生産車用のインテークマニホールドのボルト穴の形状を設計変更し、組み立て時に匠が微調整できるように改善されました。世界に通用するスポーツカーであるGT-R専用に仕立てられたエンジンですら、そんな経験を積みながら改良を続けているのです。

最近聞いた他の事例では、レクサスGS-Fのエンジンは組み付け後にクランクプーリーにペーパークリップのようなウェイトを装着することで回転バランスを最終調整し、ホンダNSXではフライホイールのボルトの長さを変えることで重さを変え、同様の調整を実施しています。元々の部品精度が高いはずの高級エンジンでも、最後に微調整するとさらにフィーリングが良くなるというわけです。

興味深かったのは、NSXでの回転バランス調整はアイドリング付近の振動に効くとのことでした。これは、走行時や加速中はシリンダー内の燃焼による回転変動が大きいので回転バランスのバラツキはあまり体感できないが、アイドリングは燃焼エネルギーが最小なので、相対的に回転バランスのバラツキが目立ちやすいからとのことでした。回転バランスは高回転に効くと思っていた筆者は目からウロコでした。

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▲バルブクリアランス測定。新車時でもバラツキがある場合は、調整で調子が良くなる場合もある。

今回は主に整備の現場目線で見たエンジンの個体差を挙げてみましたが、それらは一部の要因で他にもいろんな要素があると思います。例えば、燃料のインジェクターも噴射量のバラツキがあって、整えると回り方が変わる場合があります。その辺は、別の機会に紹介したいと思います。

※写真提供:自動車専門誌「オートメカニック」 (株)内外出版社

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高山 則政

小学生の頃から機械が好きで、実家のエンジン付き農機具でメンテナンスに目覚め、運転免許取得前から不動バイクの再生などに勤しむ。現在は雑誌オートメカニック(内外出版社)でメンテナンス系記事を主に担当。自らエンジンやトランスミッションのオーバーホールを行うなど、アマチュア目線でありながらもプロ領域をのぞき見するのが好きで、海外のツールを取り寄せてテストすることもある。筑波サーキットで開催されたマツダ・ロードスターのワンメイクレース参戦ではシリーズチャンピオン獲得経験を持つなど、自身のドライビングスキルの向上にも取り組んでいる。

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