ベルリンを駆け回る初代トゥインゴ。きっとこの先も長く愛され続けていくだろう

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6月に入り、ベルリンはようやく夏の陽気です。日光浴が大好きなドイツ人のことですから、オープンカーやキャンバストップ、サンルーフ付きのクルマに乗っているオーナーたちは、晴れていればここぞとばかり屋根を開けて走らせています。その中で、一際多く見かけるのがルノー・トゥインゴのキャンバストップ。それも2016年に日本導入された最新のトゥインゴ3ではなく、今もたくさんの初代、トゥインゴ1が元気に駆け回っています。

ベルリンで一番見かけるトゥインゴは、なんと初代!


▲トゥインゴの後期型、キャンバストップです。まつ毛のステッカーがかわいいですね


▲サイドから見ると、タイヤがいかに四隅に配置されているかがわかります


▲この個体は特に綺麗に維持されていました。オーナーの愛情を感じます

トゥインゴ1は、日本では最近めっきり見かけなくなったクルマのひとつ、と言って良いのではないでしょうか。筆者の住むベルリンでは、3代目も2代目もそれなりに見かけますが、まだまだ初代の数が上回っている印象。先程、元気に駆け回っていると書いたものの、生産終了から既に10年が経ち、見た目にもかなりの走行距離を経ていると思われる個体が大半です。ここに載せた写真でも、適度にヤレた姿から、オーナーたちが日常の足としてガンガン乗っている様子が想像できることと思います。現地の中古車情報サイトでも、10万キロ、20万キロ超えの個体は珍しくありません。そんなトゥインゴ1ですが、今でも現地の多くの人々、特に女性オーナーたちから支持され続けています。

スペース効率を追求した結果、左ハンドル仕様しか生産されず……


▲こちらはかなり走り込んでいる様子の後期型、キャンバストップです


▲ホイールキャップなしのスチールホイールもいい雰囲気ですね

ここで、トゥインゴ1の成り立ちを振り返ってみましょう。デビューは1992年のパリ・モーターショー。翌1993年からヨーロッパで販売が開始され、日本へは1995年、当時のインポーターであるフランス・モーターズによって正規輸入が始まりました。130万円強という挑戦的な価格設定でしたが、左ハンドルしか選べなかったことが原因でしょうか……理由ははっきりとわかりませんが、最終的に日本へ入ってきたのは5,000台あまりと言われています。14年間生産され続け、全世界で240万台以上を売り上げたことを考えると、少し寂しい数字に感じますね。

デザイナーはパトリック・ルケマン。1987年にフォードから移り、後にコーポレート・デザイン担当副社長に就任する彼の代表作は、ミニバンの外形をした異色の2ドアハッチバッククーペ・アヴァンタイム、魅惑のリアビューを誇り、ヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーも受賞したメガーヌ2、ルノー・スポールのワンメイクレース用競技車両に保安部品だけを付けて市販化したようなルノー・スポール・スパイダーなどが挙げられます。

トゥインゴ1も彼の代表作と言って間違いないでしょう。日本の軽自動車規格より25mmだけ大きい3,425mmの全長に、全幅は意外なほど大きい1,630mm。1,415mmの全高と、オーバーハングをギリギリまで切り詰めて四隅に配置したタイヤのおかげで、大柄な人が乗っても頭上に余裕があり、後席もリクライニングでき、後方にスライドして後席足元を広げることも可能。またシートアレンジも多彩で、前席は前に倒すことも、フルフラットにすることもでき、後席を商用バンのように全体を起こして畳むと、そこには巨大なラゲッジルームが出現する、という合理的な設計でした。小さな車体に大人4人が乗れる広い室内空間、さらに様々なシートアレンジでクルマの使い方を限定させない作りは、フレンチ・ベーシックカー、トゥインゴ1の面目躍如といったところでしょう。

内装はプラスティックが多用され、その質感は決して高いものではありませんでしたが、デジタルセンターメーターや、助手席前の大きなポケットなど、デザインの妙でチープさを感じさせません。また、ルノー車の伝統に則ったふんわりとしたシートは、長距離でも疲れ知らずでした。

トランスミッションは通常の5速MTと2ペダルMTの「イージー」が用意されていました。このイージー、曲者と名高いシステムで、日本ではAT限定免許でも運転が可能でしたが、ATモードはなく基本的には「自動でクラッチ操作が行われるだけのMT」なので、アクセルをうまく合わせないとギアが入りにくく、さらには故障も多かったようです。2001年には「クイックシフト5」と呼ばれるATモード付きシーケンシャル5速MTが登場。日本へ正規輸入されたのは上記3種類でしたが、本国では通常のトルコン式3速ATを載せたモデルも存在しました。サスペンションの形式は、フロントはマクファーソンストラット、リアはトーションビーム/コイルで、ルノー車としてはごく一般的な設計が採用されています。

トゥインゴを貫く「フランス車の美学」


▲初期型のキャンバストップ。ヘッドライトはカットガラス製で、経年変化が少ないのが特徴でしたが、2001年日本導入分からポリカーボネート製に変更されました


▲給油口の蓋が取れたままになっています……ここに紹介した3台はすべてキャンバストップですね


▲無塗装のバンパーもよく似合っています

トゥインゴ1の魅力は、そのまま古き良きフランス車の美点である、と言い切っても過言ではないでしょう。見た目は素っ気ないけれども出来の良いシート。ゆっくり走っても運転が楽しく、スピードを上げれば沈むように安定するサスペンションと、しっとりとした乗り心地。ステアリングに手を添えるだけでどこまでもまっすぐ進む直進安定性。その恩恵を受けて長距離を走っても疲れ知らず。ハンドルを切ればロールするけれども、タイヤは地面を掴んで離さず、その気になれば下りのワインディングを飛ばすことだってできる。エンジンは非力で加速は鈍いけれども、実用域のトルクが太いため発進にさほど気を使う必要はなく、低い回転数でポンポンとシフトアップしていけば燃費も良くなる。車体の大きさの割には人も荷物も積めて、かつエクステリアもインテリアも個性的。もちろん、欠点がないわけではありませんが、それを補って余りある「割り切りの美学」が、今も人々を惹きつけているのでしょう。

ミニ、VWタイプ1、フィアット500、シトロエン2CV、ルノー4といったヨーロッパの傑作ベーシックカーたち。どのクルマも搭載しているのは小さなエンジンですが、「スピードを上げなくても運転が楽しい」という点で共通しています。その後を継いで、さらにフランス車のエッセンスをぎゅっと凝縮したのが、この初代トゥインゴではないかと思うのです。ベルリンでは、トゥインゴ1のキャンバストップを開けて、そこに大きな絨毯を突っ込んで運んでいる若い女性も見かけました。そう、まるでシトロエン2CVのカタログ写真のように!

現在も、特に旧東ドイツだったエリアで絶えず大規模な工事が続く街、ベルリン。その工事が原因で、公共交通機関の運行本数が減少したり、迂回させられたり、といったことは日常茶飯事です。土曜日の午後や日曜日・祝日は、飲食店を除く多くの店は閉店してしまいます。それでも、街の人々はそういった不便に寛容で、むしろ逆手に取ってのんびりと楽しんでいるかのように見えます。(休日の公園では、特に何をするわけでもなく、日光浴しながらゆっくり過ごしている人々が大勢います)筆者が初代トゥインゴに接していると感じる「欠点なんて探せば出てくるけど、クルマってこれで十分だよね!」というある種の潔さは、ベルリンの寛容な雰囲気にうまく溶け込んでいて、きっとこれからも長く愛され続けていくのではないかと、そんな予感がしています。

[ライター・画像/守屋健]

守屋 健

鹿児島県出身。幼い頃、歯医者の待合室で偶然手に取った自動車図鑑、それに載っていた緑のポルシェ911ターボ(930型)に衝撃を受け、「将来必ずこのクルマに乗る」と決意するも、今日まで実現には至らず。1993年シーズンのDTMや1995年のル・マンでヨーロッパへの思いを募らせ、念願叶って現在はベルリンに居を構えるフリーランスのライター。自他共に認めるドイツ好きだが、何の因果か現在までの愛車はカングーやルーテシアといったフランス車ばかり。

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