2000GTとLFAの熱いレースシーン!NHKの愛知発地域ドラマ撮影秘話

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前回に引き続きNHK「真夜中のスーパーカー」の制作者インタビューをお送りします。今回は、実際にLFAとトヨタ2000GTを走らせてレースシーンを撮影した時のエピソードなどを中心にお話を伺ってきました。

地域発のドラマ制作への思い

CL 鈴木:僕は昔、絵を描いていたんですが実物を見ないと描けないんです。文章を書いても本物を知らないと嘘を書いてもバレちゃうんですよね。僕はまだ小説を書くということはしていないんですが、フイクションでも本当の事をうまく混ぜないと薄っぺらい話になると思うんですよね。貴重な体験を実際にしてストーリーに反映しないと、奥行きのある物語は出来ないと思うんです。

大橋:おっしゃる通りです。これも結構なぶっちゃけばなしですが、60分の中でそれなりの物を見たという風に感じてもらうには、ある程度座りのいい結論といいますか、歩留まりみたいなものがすでに提案段階に必要なわけです。こういうメッセージを届けるべくこういう話にすればちゃんと歩留まるはずだ、という最低限のラインと言いますか。「地域発ドラマが作り手に対して与えるミッション」に応える義務がありますしね。

今回でいうと、名古屋局に転勤してきたからには自動車をテーマに愛知発地域ドラマを作ろうと、まずは意気込んだ。どうやら長久手に古今東西のクルマを展示してある自動車博物館があるらしい。自動車博物館があるなら、そこでたとえばベン・スティラーのナイトミュージアムみたいな話を作るっていうことまではスルスルっと…

CL 鈴木:スルスルっと出てきた!

大橋:はい。そこまではあっという間の発想で、何の苦労も無かったですね。

ここで前任地の広島での話に

大橋:僕が名古屋局に転勤してきたのは、1年半前なんです。その時点で地域発ドラマを名古屋局がまだやってないのはもったいないなと思いました。僕はその前広島にいたんですが、みんな口を開けば「野球はカープ」(笑)。たとえば、カープが戦後「樽基金」って言ってそれでお金集めて市民球場作ったとか、地域みんなで支えたとか、そういった話はいまだにドラマ化するとみなさん泣きながらご覧になるんです。なら当然「自動車は…」

CL 鈴木:マツダですよね。広島の人はたしかに乗ってる人、多そうですよね。

大橋:あれだけ広島人が地元企業をひいきしているんだから、さぞ名古屋人も…と思ったら意外とそれほどでもないかな、と。もっと自由にいろんな会社のクルマに乗っているなという印象は受けましたけど。

CL 鈴木:(笑)。「名古屋だからクルマはみんなトヨタ」ってわけでもないんですよ。大体、半分くらいかな。

大橋:でもまぁ、少なくとも愛知が地域発ドラマを作るときに「自動車産業をさしおいて他の題材にする手は無いでしょう」ってみなさんおっしゃるだろうと思って。ナイトミュージアムって発想は、いわばお客さんをドラマの世界に引っ張りこむための仕掛けなんですよね。自動車に興味ない人にもドラマを見てもらいたいじゃないですか。

もちろん、自動車産業を主な糧としている愛知県なり東海地方がプライドを持って支えている自動車の産業に光を当てて、自動車産業が人々の生活といかに密着しているか、そして最終的に「やっぱり自動車を作る事って素晴らしいな」って思ってもらえるストーリーにすることができれば内容面でも歩留まるはずだ。「それがミッションだ」と見据えて作業を始めるわけですが…、ただそれだけだと最初に思い込んだものをなぞるだけの作業になっていくんです。

貴重なレースシーン撮影のエピソードも語っていただきました

大橋:ところが2017年はあの2000GTが販売50周年だと知りまして、そこから本気モードといいますか、そこを掘りたいという「ディレクターの虫」みたいなのが騒いだんですよね。で、掘ってみたら、この21世紀に2000GTに勝るとも劣らないインパクトを持ったスーパーカーが、物凄い情熱に満ち溢れたリーダーシップのもとに10年という長期間を経て開発されていたという事実を知りました。世界に冠たる大企業から今、その種の芸術品が生まれるのは奇跡であろう、と。

CL 鈴木:LFAですね!!

大橋:LFAの開発チーフ・棚橋晴彦さんに出会って、色々とお話を伺いました。その過程で「本物をちゃんと体験させなきゃだめだ、このディレクターに」って、棚橋さんご自身が思ってくださったんですね。で、実際にLFAに乗せていただき、新幹線と勝負するくらいのスピードを体感させていただいたというわけです。それはもう、目の覚めるような体験でした…。このドラマに取り組む姿勢そのものを、根底から一新させていただいたような、そんな凄まじい体験でしたね。

CL 鈴木:実際の体験によって、撮影の方針が影響を受けたということですか?

大橋:じつをいうと、僕はもっとチャチい仕上がりになってもいいから、このドラマを作るべきだと最初は思っていたんですが、こうなったらもう後戻りはできない。最初の僕の想像を遥かに超えるゴージャスな形で撮影する覚悟を決めました。しかし実際の撮影時には僕なんかよりもっと真剣にクルマを愛して、クルマのために生活を捧げている人たちの情熱によって、あれよあれよという間に僕が想像していた以上の状況が展開してしまい、僕は唖然とするほかなかったです。

たとえばクレーンカー(カメラの付いたクレーンを搭載した車両)で撮影したわけですが、いま見ていただいた映像は、撮影車+その運転を取り扱う撮影車両会社と、特機+その操作を取り扱う特機会社の、2社に協力を依頼したんです。ベンツの4WD(GLC)をベースにした撮影車に、スコーピオアームというクレーンを取り付けました。2000GTを運転するのがトヨタのテストドライバーの鵜飼龍太さん。 LFAを運転するのが今橋彩佳さんというプロの女性レーサーです。

CL 鈴木:こないだの女性だけのラリー大会でいきなり優勝した日本で屈指の女性レーサーですよね。

大橋:「L1 RALLY in 恵那 2017」 (http://www.ena-rally.com/ )サーキットでのレースにずっと出ていらっしゃって、いきなりラリーにも出て優勝ってすごいですよね…。撮影のためには、たしかに僕は演出家としてストーリーが要請するものを表現するために、ミュージカルにおけるダンサーへの振り付けのように、自動車にいわば「振り付け」をする役目を果たさなければならないわけです。

「このヘアピンでテールトゥノーズになって」「高速カーブ抜けたら横に並んで」「ここでアウトからオーバーテイクして」などと、振り付けを考えるわけですが、二台の攻防をどこまで一気に連続して撮れるのか、やっぱりレースを細かくぶつ切りにしてワンコーナーずつ撮っていかなきゃ撮影が成立しないのではないかと心配になったり、どんな段取りで撮影を進めていけるのか当初は皆目 見当がつきませんでした。

しかしですね…ドライバーのおふたりが素晴らしくて、ひと通りご説明差し上げましたら、見事にそのレースの展開をお二人が完全に頭に入れてくださって…。細切れではなく完全にひと通り連続して、実際のレースさながら一気に走ってくださりまして、もうびっくりしました。しかも「もう一周」「もう一周」とテイクを重ねるたびに、どんどん勝負が白熱していって、あわやぶつかりそうになるくらいの至近距離でしのぎを削ってくださいました。そうなるともう、僕はただただ「なんとか無事に終了しますように」と心の中で祈るばかりでした。

▲テストドライバーの鵜飼龍太さん

▲プロの女性レーサーの今橋彩佳さん

大橋:なおかつ撮る瞬間は、お二人の競り合いとカメラが前から撮ったり後ろから撮ったり、後ろから撮ってたかと思うと横に並んだりしたでしょ? あのカメラカーを運転する寺島厚司さんがまたすごいんです。まず二人のドライバー鵜飼さんと今橋さんが真剣に勝負してるんですね。それに対してもう一人、寺島さんが果敢に並走したり、追いかけたり、前から向かったり…。寺島さんの運転技術にも本当に感動しました。

CL 鈴木:すごい…分野は違えど、三人のプロドライバーがプロの仕事をしたんですね。

大橋:プロの仕事で大事なのは、お互いに対する信頼感ですね。1億円のクラシックカーと8000万円のスーパーカーの、合計2億円近いクルマが本当にすれすれで走っているんですよ。いろいろな事を頼んだんですが、あそこまで頼んでないんですよ。(苦笑)

※LFAも現在、新車価格を超える6000万円以上の市場価値があるそうです

CL 鈴木:頼んだ以上の事が実現しちゃったんですね。

大橋:いやいやもう、怖いですよ(笑)本当に接触すれすれですからね。一応予定された攻防やってもらっているわけですけどね。最後のストレートはどっちが勝つかわからないくらいハラハラさせてほしいとか、演出家として口ではいうんですが、結局本当に見ているこっちがハラハラして(苦笑)。

CL 鈴木:別の意味で?(笑)

大橋:別の意味でもハラハラして、うわぁ~って(笑)。カメラカーには五人乗っているんですよ。寺島さんが運転し、もう一人、特機会社の岡村さんがクレーンの上げ下げを操作するんです。このクレーンの上げ下げもフレーミングにとっては物凄く重要で、立体交差があるときは下げないといけないし、だけど2台の差を見せつつカーブの曲線を見せたい瞬間には高く上げるとか、でも加速して前に出る瞬間には、さっきいってたスーパーカー撮ってたカメラ小僧時代の自分みたいに、ギリギリ地表近くから撮ったほうがカッコいいとか。

CL 鈴木:たしかにスーパーカーの写真も、高い視線か低い視線かで、まったく印象が変わりますもんね。

大橋:そうなんですよ!視点の上げ下げが大事なんです。そのクレーンの先っぽにカメラが付いてるんですね。それをうちのカメラマンの濱田さんが、どういう風に切り取るかフレームを作るわけですね。で、決めたフレームにしたがって、フォーカスマンの俵さんがピントをバッチシ決める、一台のカメラに四人がかり。

大橋:鵜飼さんと今橋さんがお互いを信じあうからギリギリまでせめぎあう、接触直前まで行く、それに対してクレーンカーの寺島さんが追いかける、追いかけるクレーンカーと一体になって岡村さんがクレーンを上げたり下げたりする、濱田さんがそこで撮れる一番よい絵をフレーミングしようと躍起になってくれる。

4K映像はピントがシビアなので、俵さんがフォーカスを必死で合わせる…一人だけなにもやってないのがいるんですよ。それが自分(笑)。唖然としているだけ、もう、みんなの本気に、「僕が頼んだ事であるし、僕が言ったから」みんな動いてくれているんだけど、遥かに僕が期待していた、想像していたことを超えた風景が目の前で展開して、単にオロオロしているっていうだけですよ…。プロの熱い仕事がぶつかり合って、スパークする瞬間に居合せて、「言い出しっぺは僕なんだけども、み、みんな、あ、ありがとう…」としか言いようがない(笑)。

CL 鈴木:いや~、申しわけないと思ったんですが、僕あれドローンで撮っていたのかと思っていたんですよ。実際にカメラカーで追いかけながら撮っていたんですね。

大橋:ドローンではまだあそこまでスピード出ないと思いますよ。それにドローンをどこからリモコン操作するかが課題になる。視認できる距離でリモコン操作しなければならないので、やはりある程度は並走するしかない。もちろんドローンでしか撮れない俯瞰のロングショットもあるんですけど、今回予算的にクレーンカーもドローンも両方欲しいというわけにはいかなかったですし。ドローンのことも正直検討しましたよ。だけどやっぱり今回はクレーンカーだなと。あくまでカメラも一緒にレースを走っていないとダメだ、と。でも同じクレーンカー頼んでも、その時のドライバーが燃えてくれなきゃあんなにハラハラするレースシーンにはならないですよね。

撮影終わった後に、寺島さんのアシスタントの田中さんが「今日の寺さん凄かった」って言ってたのが聞こえちゃったんですよ。クレーンカーを運転していても普通はあそこまではならないんですよ、きっと…。自分の撮影のためにあそこまで限界を極めてくださったんだな…と思って、本当にうれしかったです。心臓ドキドキしましたけどね。

CL 鈴木:心臓ドキドキと言えば、スタートの瞬間の描写、いいですねぇ。サーキットの歓声がヒロイン・白雪の脳内から一瞬にして消えうせて、静寂の中で自分の心臓音だけが波打ってくる…なにか一流のアスリートが「ゾーン」に入っていく時のような、白雪の一瞬に賭ける集中力を感じさせる素晴らしい演出でした…。

大橋:スタートの瞬間なんですが、2台が動き出す瞬間より一瞬だけ先にカメラカーが動き出していてほしい、というのは僕のこだわりなんですよ。一緒に動きはじめたんじゃ遅いんです。カメラカーの方が先にそろそろと動き出してそこに2台が走り出す。つまり2台が動き出すときには先に映像が走り出してるっていう感じです。これは、何度もマックィーンの「栄光のル・マン」のスタートシーンを見直したんです。

(注:「栄光のル・マン」1971年公開のル・マン24時間レースをテーマにしたアメリカ映画、監督リー・H・カッツィン、主演スティーブ・マックィーン、冒頭でマックィーンが乗っている劇用車の1970年型ポルシェ911Sは2011年のモントレー・カーウィークのオークションに出品され日本円で9600万円で落札された)

CL 鈴木:僕もあとで「栄光のル・マン」見直してみます。

大橋:すぐパクリだってわかりますよ(笑)オマージュといえば聞こえはいいけど……。フラッグを振る男性とか観客席とかがモンタージュされるタイミングとか含めて。ま、でもあれほどのレース映画は他に知りません。「栄光のル・マン」ほどあんなに生々しくレースの実態を再現している映画は無いと思います。

CL 鈴木:いや、そうですよね。今の若い人だと昔のクルマの出てくる映画を見て「CGじゃないの?」っていうんですよね。「栄光のル・マン」の冒頭だったかな?ダミーのレーシングマシンを大砲で打ち出して、壁に激突させたり、デチューンした本物のレーシングマシンを実際に役者に運転させたり…今だったらこういうのはCGでやっちゃいますよね。あ、これは「グラン・プリ」だったかな?

(注:「グラン・プリ」1966年公開のF1GPをテーマにしたアメリカ映画。監督ジョン・フランケンハイマー、主演ジェームズ・ガーナー、注目すべきは本田技研がモデルと思しき架空の日本チーム「ヤムラモータース」が登場し、チームオーナーの矢村社長をハリウッド初進出の三船敏郎が演じている)

ル・マン24時間レースをテーマにしたアメリカ映画「栄光のル・マン」の話も盛り上がります

大橋:ちょうどあの頃、「レーサー」と「グラン・プリ」と「栄光のル・マン」の三本が立て続けに公開されているんですが、「グラン・プリ」はソウル・バスっていうグラフィックデザイナーがいて、ハリウッド映画のオープニングのグラフィックやアニメを作ったり、有名なのはヒッチコックの「めまい」のオープニングで光学的な輪っかの、まるで「めまいしそうな模様」のオープニングを作ったり。

「サイコ」の有名なシャワーシーンでジャネット・リンが殺されるシーンなんですが、ピクトリアルスケッチといってワンカットずつこんなカットでこんな風に「カーテンの向こうに人影が」「気がつかないヒロイン」「ナイフで切りつける」「絶叫」「排水溝に血が」…っていうのを、全部絵コンテに描き起こして。

そんなハリウッドのグラフィック・デザイナー、ソウル・バスが「グラン・プリ」でもオープニングを作っていて物凄くカッコいいスプリットスクリーン(分割画面)で。やっぱレース映画にはスプリットスクリーンがぜひモノ(絶対に欠かせない部分・ネタ)!というわけで今回、分割画面も結構レースシーンに使っているんですが、そこはソウル・バスみたいにカッコいい分割にしたいなっていう思いがありました。

(注:「サイコ」1960年公開のアメリカ映画、監督アルフレッド・ヒッチコック、主演アンソニー・パーキンス。有名なシャワーシーンの撮影にはジャネット・リーの全撮影日数3週間のうち3分の1を占める、7日間を要したという)

大橋:「グラン・プリ」から触発された部分もありましたが、レースの生々しさでいうとマックィーンの「栄光のル・マン」のあの感じ! 本人がホンモノのレーサー(スティーブ・マックィーンは、俳優業をこなしながらさまざまな自動車・バイクレースに出場し入賞をはたしている)だからこそ出来た…。「栄光のル・マン」って人間ドラマとか恋愛シーンとか物凄い最小限なんですよ、セリフも。

レースシーンばっかり時間かけて撮影しているうちにどんどん予算が超過してって、出資者でもあったマックィーンは借金のカタに、最終的には撮影素材を映画会社に奪われた形になるんです。それでもマックィーンがやろうとしていた事はちゃんと映像に残っていて、実際のレーサーじゃないと感じられない動悸であるとか、レース時の他のクルマの見え方とか、そういうのが一番生々しく映っていると思うんです。

CL 鈴木:いや~、僕もあれは凄いなって思うのがポルシェ914とプロトタイプカーが一緒に走っていてパッシングして追い抜くとか、古き良き時代だな~って、今だったら一緒に走れないじゃないですか。メーカーからクレームが来ると思うんですけど、フェラーリがクラッシュしてバラバラになるっていうのを本当にやっちゃったっていうのが凄いですね。(実際は、フェラーリ社からの協力は得られず、劇用車は個人オーナーからの借用でクラッシュしたマシンもダミー)

まぁ、エンツォさんの事だから「映画じゃなきゃこういうことは起きませんでしょうからな」くらいに笑い飛ばしていたかもしれませんけどね(笑)。

大橋:レーサーっていう職業に対して当時の人々が持っていた期待感って、今とは次元が違っていたかもしれませんよね。結局「命知らずのやつら」って事じゃないですかね、60年代のレーサーは。

今はレーサーの死亡事故もゼロに近いほど激減していますが、昔は年に何人かは亡くなっていたんですよね。存命なら、その後よほどの名レーサーになっていたであろうっていう人が不運で命を落としているんですよね。日本でも浮谷東次郎さんが亡くなっているわけだし、2000GTに乗っていた人でも福沢幸雄さん(ちなみに福沢諭吉の曾孫に当たる)がトヨタ7の事故で亡くなっているんです。

自動車博物館の中で漂う「クルマの魂」

大橋:博物館の人に話を聞いていると「このクルマ達は大事に大事にメンテナンスして動態保存してあります。動けるようにしてあるけど、そんなにバリバリ動かしたら部品がすり減ってしまうから動かせない」と。それを聞いてクルマとしては思いっきり走りたいだろうに「ちゃんと油さして、筋肉ほぐして、マッサージしてもらって…なのに肝心の試合には出られない」っていう凄いフラストレーションがもしかしてあるんじゃなかろうか…?なんていうバカバカしい妄想が浮かびまして。(笑)ナイトミュージアムで真夜中に思いっきりクルマたちが走りたがってるという。(笑)

しかしながら先ほどの話にも出た、レース中や開発テスト中に命を落とす結果になってしまった人たちもいたわけですよね。レースも、クルマの開発に無くてはならない過程のひとつだったわけだから、まさにクルマの開発に殉じた…亡くなっていった人たちっていっぱいいるわけですよね。そういった人たちの魂みたいなものが「クルマの魂」として、あの自動車博物館の中で漂っていてもおかしくないんじゃないか…なんて妄想がどんどん拡がっていった。ナイトミュージアムって発想をした当初は、そんな事まで考えていなかったのですが。

CL 鈴木:さらに、飛行機を作っていた人たちが、戦後に自動車を作る事になった事実にも触れられていましたね。

大橋:取材を重ねていくうちに、飛行機開発出身の人たちが戦後、自動車を開発していたと知ったのも大きかったですね。戦中に戦闘機を作っていた人が、飛行機を断念してクルマを作ることになった時、物凄く大きなギャップがあったと思うんです。また自分が作っていた戦闘機に乗せたパイロットを死に至らしめてしまった…という気持ちにどう折り合いをつけて前に進んでいくか、苦悩した人たちもいらっしゃったはずでしょう? 戦争で亡くなってしまった人たちの魂は、戦後に自動車を開発する人たちの肩にも重くのしかかっていたんじゃないかということも思い浮かぶわけです。

そう考えると今回の『真夜中のスーパーカー』という企画は、最初は「自動車に心があったら、自動車が『カーズ』みたいに物をしゃべったら、どんなことをいうのか」という興味から始まって、それプラス「自動車開発に繋がっている先人の魂たち」と対話してみたいという方向にまで、取材を重ねるうちにどんどん話が拡がっていった、と言えますね。自動車開発に殉じていったレーサーたちであったり、テストドライバーたちであったり。それ以前の戦闘機に乗って死んでいった人たちだったり、今の感覚じゃ理解できないほど人の命が軽視されていたとも言える時代に、たくさんの人たちが命を散らしていった歴史があるのを僕たちは知るべきですよね。

レースで毎年人が死んでいくのは想定内だと思われていた時代が確実にあったわけですし、戦争をしていた時代には特攻をやらされていた人たちの命は失われても仕方が無いものと数えられていたわけだし、そういったことって物凄く重いじゃないですか。その重さって今はなかなかわからないですよね?

CL 鈴木:きっとそういった重さがわからないから、今また同じ事をしているのかもしれないですね。若い人が自殺するまで働かされるとか…

大橋:いつの時代にも、そういう重さを忘れないようにしなければいけない、っていうのがあると思うんです。60分の娯楽番組であっても、やっぱりそこに開発者の思いであるとか、クルマと一緒に死んでいった人の思いであるとか、クルマを作っていた人たちが作っていた戦闘機に乗らざるを得なかった人たちの思いとか、いろいろな思いが戦後の平和、戦後の自動車産業に直接、あるいは間接的につながっていく。そういった歴史を描く意味は絶対にあるわけです。

そんな流れの中、たった今この時代では、スーパーカーが求められているのではなく、むしろ自動運転みたいなものが求められているわけですが、その時代の流れの中で今「自分には何が期待されているのか」について、現代を生きる20代前半の若いヒロインがどう感じ取るかというストーリーに発展していったわけです。

3時間に及んだ白熱したインタビューも終盤を迎えて…

大橋:最初は、単純に名古屋、自動車産業、地域発ドラマ…イケる!自動車博物館、ベン・スティラー…イケる!だったのが周りの本気に触発されて、自分でちゃんと200km/h体験してみないとだめだよなぁと思い、自動車と仕事をしている人たちと知り合って、この人たち本当に熱いなとビックリして…本当にあれよあれよと物語が走り始めました。

CL 鈴木:NHKというとよく受信料の話が出ますが、こういう番組があるから侮れないんですよね。去年の東京ブラックホールとかインパール作戦とかもうこれで受信料帳消しだ、ってなっちゃいます。

大橋:その侮れないっていうのが重要なんです。NHKは受信料だけで成り立っていますから、お金をおろそかには使えない。僕の知る限り、いつも現場はカツカツなんです。人々の嗜好が多様化する現代では、マニアックな人々を満足させるためのハードルはどんどん高くなっていますが、そんな高い嗜好性をもつ人々にも(今回のドラマならばカーマニアの皆さんということになりますが)受信料を払うだけの価値があると納得してもらえるものを作るには、どうすればいいか……いつも無い知恵を絞ってうんうん唸りながら「ああでもないこうでもない」と昼も夜も考えています(笑)。

取材を終えて

1時間のはずが2時間50分に及ぶロングインタビューになってしまい、撮影の話はもちろん、公共放送のありかた、映像の制作者としてのプライド、最近の若い人の異常な労働環境などにも話がおよびここには書ききれないほどの話を伺うことが出来ました。

愛知発地域ドラマ「真夜中のスーパーカー」は4月21日(土)午後4時からBSプレミアムで再放送されます。また、19日(木)・20日(金)の正午から4Kでの放送も決定しました。4K放送は各地のNHKでご覧いただけます。

取材協力:NHK名古屋放送局
真夜中のスーパーカー
http://www.nhk.or.jp/nagoya/supercar/
出演:山本美月/上遠野太洸/大森博史/MEGUMI/深沢敦/水木一郎/団時朗/唐沢寿明 ほか

▼2000GT VS LFA 新旧スーパーカー真剣勝負!プロモーション映像はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=VhlLkoT3b4w プレビュー

▼主題歌が聞けるVR映像はこちら
https://www.youtube.com/watch?v=XoN0vFK2pto

[ライター・カメラ/鈴木修一郎]

鈴木 修一郎

愛知県名古屋市在住。幼少期より自動車が好きで、物心着く前から関心の対象はニューモデルよりもクラシックカー。免許取得後念願の昭和44年型スバル360スーパーDX購入、その後昭和48年型トヨタセリカLB2000GTを購入し現在も所有、今気になるのは縦目以前のオールドメルセデス。普段、普通の会社員をしつつ、休日は購入から20年近くたったスバル360のDIYレストアに挑戦中。実車のほかカーモデルやスロットカーも嗜み、最近はフルスクラッチで市販キットでモデル化されていない車種も製作。プロフ画像は最近完成したタミヤ1/12Gr.5セリカLBターボのラジコンボディをベースに市販車仕様に改造し自分の愛車を再現した初期型セリカLB2000GT。いつかはドイツに移住し愛車のセリカLBでヒストリックナンバーを取得しアウトバーンを走るのが夢。

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