最後の空冷ポルシェ911という運命を背負った、コードネーム993

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1993年9月7日9時11分。第55回IAA フランクフルトモーターショーの会場において、コードネーム993、新型ポルシェ911カレラ(以下、993)がデビューを果たしました。

アークティックシルバーメタリックのボディカラーに、フラメンコレッドと呼ばれる真紅の特別仕立てな内装を持つクルマを覚えている方も多いのではないでしょうか。傍らには、ワンメイクレース仕様車のスーパーカップカーも展示され、新しい時代のポルシェ911の幕開けに華を添えました。

1989年に登場したコードネーム964(以下、964)が5年でフルモデルチェンジとなり、日本に上陸した993。例によって「最新のポルシェは最高のポルシェ」のうたい文句とともに紹介されることとなりました。この言葉は、最新のモデルが性能的には先代を上回っていることは百も承知だけれど、事実としてなかなか受け容れ難いと感じているオーナーやファンに対しての踏み絵なのかもしれません。

少なくとも、当時はニューモデルが発売されたからと(気にはなっているけれど)飛びつくクルマではなかったのかもしれません。イヤーモデルの些細な変更にも過敏に反応してそわそわしていたはずのオーナーたちが、フルモデルチェンジとなった途端に様子見…。つくづくポルシェ911は不思議なクルマだと感じさせられます。

964と比較してグラマラスなボディをまとった感のある993ですが、ボディサイズを比較すると…。

ポルシェ911(993) 全長×全幅×全高:4245x1730x1300mm

ポルシェ911(964) 全長×全幅×全高:4245x1660x1310mm

全幅は広がっていますが、全長は同一サイズです。また、全高がわずかに下げられています。車両重量は、993が1370kg、964が1350kg(いずれも2WDモデル)です。

搭載されている3.6L 空冷6気筒SOHCエンジンも、排気量やボア/ストロークを含めて数値上は同一です。最高出力は、993は272ps/6100rpm、最大トルクは33.6kgm/6100rpmを発揮します。ちなみに964は、最高出力は、250ps/6100rpm、最大トルクは31.6kgm/6100rpmとなり、パワーアップしていることが数値のうえからも分かります。大きなトピックとしては、2万キロごとに必要とされていたタペット調整が、ロッカーアームに油圧ラッシュアジャスターが採用されてメンテナンスフリーとなったことです。また、全幅が広がったことでリアフェンダーまわりのスペースに余裕が生まれ、その恩恵のひとつとして左右2本出しのマフラーおよび排気まわりに充てています。

トランスミッションも、964時代の5速MTから6速MTへと進化。ティプトロニックは4速のままですが、エンジンの仕様変更に準じたプログラムへ変更。後にステアリング上のスイッチでもシフトチェンジが行えるティプトロニックSへとアップデートされています。

993を語るうえで最大のトピックとして、ヘッドライトのデザインまわりの変更とリアサスペンションが一新されたことが挙げられます。ポルシェ959にも似たヘッドライトのデザインは、これまでの911に比べて傾斜角のついたものとなり、目つきが変わったことによるデザインの賛否が方々で論じられたことでしょう。

また、通称「ナローポルシェと」呼ばれる901から964まで採用されていたセミトレーディングアーム式に替わり、サブフレーム式マルチリンクを採用した点も大きな変更点です。当時は911の歴史上、もっとも大掛かりな設計変更といわれ、高速走行でのコーナリングや接地性を格段に高めただけでなく、セミトレーディングアーム式独特の乗り心地もついに過去のものとなりました。

内装も基本的には964に準じた仕立てでありつつも、ステアリングやシート、ドアパネル等は993へフルモデルチェンジしたことに伴い、新しいデザインに置き換えられました。911フリークでなければ間違い探しのような微妙な変更でも、当時のオーナーたちにとっては一大事だったのです。

タイヤサイズは、964の設定と同じフロント 205/55ZR16、リア 225/50ZR16。オプションで、フロント 205/50ZR17、リア 255/40ZR17を選ぶことができました。

964同様、993も5年というモデルサイクルを経て、コードネーム996(以下、996)へとバトンタッチします。いうまでもなく996は、993時代のリアサスペンション変更どころではない、大規模なモデルチェンジを行ったことはご存知のとおりです。

その結果、空冷エンジンを搭載した最後の911として、中古車市場での993の需要が高まっていったのです。993は、最新は最良の進化を素直に受け容れられない、あるいはいまのうちに空冷ポルシェ911に乗っておきたいというユーザーからの熱い視線を浴びることになります。中古車相場も、996より993の方が高値という逆転現象が起こりました。

いまや、ネオクラシックの領域に入りつつある993。空冷エンジンを搭載した最後の911として、また911独特の金庫のようなと例えられるドアを開閉したときの手応え。最終モデルでもそろそろ生産されて20年となります。少しずつ日常の足として使えるクルマではなくなりつつあるように感じられます。しかし、993だからこそ味わえる絶妙なバランスがあるように思えてならないのは筆者だけではないと信じたいのです。

[ライター/江上 透 画像出典/Pinterest]

松村 透

輸入車の取扱説明書の制作を経て、2006年にベストモータリング/ホットバージョン公式サイトのリニューアルを担当し、Webメディアの面白さに目覚める。その後、大手飲食店ポータルサイトでコンテンツ企画を経験し、2013年にフリーランスとして独立。現在はトヨタ GAZOO愛車紹介の監修・取材・記事制作や、ベストカー誌の取材等で年間100人を超えるオーナーインタビューを行う。カレントライフは2015年より参画。副編集長を経て、2019年、編集長に就任。現在の愛車は、1970年式ポルシェ911Sと2016年式フォルクスワーゲン ゴルフ トゥーラン。9月11日生まれの妻と、平成最後の年に産まれた息子、動物病院から譲り受けた保護猫と平和に(?)暮らす日々。

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