クルマの形がよくわからない人にとって、アウディTTSとポルシェ911は一緒だ

  1. カーゼニ
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吾輩が住まう長屋にはベランダがあり、そこから長屋の中庭を望むことができる。中庭の一部は、長屋に住まう者らの月極駐車場になっている。で、そこには、何号棟のどちらさんがお乗りなのか定かではないが、赤いアウディTTSクーペが駐車されている。

ある日、ベランダで何らかの行為をしていた家の者が吾輩に言う。「あの赤いポルシェのお宅って、猫飼ってたんだね。これから動物病院に行くみたいだよ」。……はて面妖な。いつの間に百恵ちゃんの歌のような真っ赤なポルシェが、我が長屋の中庭駐車場軍団に加入していたのだらうか?

急ぎベランダへ出てみると、何のことはない、クルマに関して知識・見識がない家の者が、アウディTTSクーペをポルシェ911と誤認していただけのことだった。

どうせわからないんだから、わざわざ911を買う必要はない?

すぐに忘れてしまう日常のひとコマにも思えるこの一件は、それなりに大きな気づきを吾輩に与えた。

それは「人はクルマの形がよくわからない」という事実だ。

アウディTTSとポルシェ911とでは、吾輩に言わせれば明らかに形状が異る。ぜんぜん異なる。ていうか中庭の赤いTTSのフロントウインドウ内には、ご丁寧にアウディのロゴが入った純正サンシェードが立てかけられている。つまり「そこにアウディって書いてあるやんけ!」ということである。

それなのに、人はそれを「ポルシェ911」と認識してしまう。

……ということは、人はわざわざ高価なポルシェ911など買う必要はなく、アウディTTSを、いや、さらにお安いTTクーペを買い、そんでもって「オレ、ポルシェ買ったんだよね」とかなんとかフカしていれば、それで万事OKなのかもしれない。

しかしもちろん、この仮定というかひとりブレストにも問題点はある。

一つは、先ほど「人はクルマの形がよくわからない」と申し上げたが、正確に言えばそれは「人は」ではなく「吾輩の家の者は」であり、より一般化して言うなら「おなごは」ということである。

つまり、基本的にはクルマに興味がない場合が多いおなごはそうなのかもしれないが、そうでないもの、すなわち男子一般は、さすがにアウディTTとポルシェ911の見分けがつくのではないか。となると、この作戦は一挙に無効化されるのではナカロウカ。

TTはさておき「996で991を騙る」作戦はどうだ?

もう一つの問題点は、自分自身のマインドである。

仮に(あくまで仮に)アウディTTを買い、そのうえで近隣に住まう男子に見せて「オレ、ポルシェ買ったんだよね」とフカし、そしてその男子が、抜け作ゆえに「へ~そうなんだ! すごいね!!!」などと目をキラキラさせて喜んでくれたとしよう。

……だからなんなんだ、という話である。

その抜け作くんは騙せたとしても、自分の心は騙せない。抜け作くんを騙しおおせたからといって、自分が乗るアウディTTが、いきなりポルシェ911に変身するわけでもない。ならば、意味ないじゃん。虚しいだけじゃん。

「……これはダメだ」と、10分間に及んだひとり脳内会議を終了させた我輩だった。

しかしながら、「安いアウディTTでポルシェ911を騙る」という作戦の表層部分は別として、その基本理念というか根本概念のようなものだけをアウフヘーベンさせた、新たな電撃作戦を吾輩は立案するに至った。

「人はクルマの形なんてどうせわかりゃしない。そしてここ日本の公道では、ドイツと違って大したスピードなんて出せやしない。ならば、ポルシェ911を買うにあたっては最新の991や、997後期の認定中古車とかを買う必要は特になく、安価なことでおなじみなタイプ996のカレラ系を買っておけば、それで万事OKなのではないか? 前期はさすがにアレかもしれないけど、後期カレラなら十分なんじゃね?」

……我ながら完璧な作戦に思える。が、粗忽者として一部で知られる我輩が立てた作戦ゆえ、そこかしこに穴がある可能性も大。ひとつずつ、確認していきたい。

女子の大半は、そして男子の多くも、細かいことは知らない

まず「人はクルマの形なんてどうせわかりゃしない」という前提だが、これについての本邦の現状は、おおむね以下のようなニュアンスなのではないか。

●最新の911と996後期の違いを詳細に知ってる女子:全成人女性のおよそ2%
●その違いをなんとなく知っている女子:およそ8%
●両者がほぼ同じ形に見える女子:およそ70%
●そもそも何だっていい、どうでもいいと考える女子:およそ20%

何の調査をしたわけでもなく単に吾輩のカンピュータだが、ま、こんなもんだろう。

男子の場合はどうか?

●最新の911と996後期の違いを詳細に知ってる男子:全成人男性のおよそ18%
●その違いをなんとなく知っている男子:およそ42%
●両者がほぼ同じ形に見える男子:およそ5%
●そもそも何だっていい、どうでもいいと考える男子:およそ35%

これまたカンピュータだが、当たらずといえども遠からずではあるはずだ。

さすがに男子の場合は、クルマや電車については幼少期からそれなりの修行ステージを経ている者が多いため、女子のように「見分けがつかない」というケースは少ない。しかし両者の詳細な違いを、それこそ圧縮比の違いまでのレベルで把握できているのは、カレントライフの熱心な読者など、いわゆるカーマニアだけだ。

多くの男子は、「(996後期を見て)最新のとは違う中古車なんだろうけど、どのぐらい古いかは知らない」といったレベル感であるはずなのだ。であるならば、「人はクルマの形なんてどうせわかりゃしない」という前提は、おおむね使えなくはない前提である……ということになる。

次に「ここ日本の公道では、ドイツと違って大したスピードなんて出せやしない」という前提についてだが……と思ったら、例によってまたもや長くなってしまった。

あまりにも長い文章を皆さまに押し付けるのは吾輩としても心苦しいので、以降の考察はまた次週、まとめてお届けすることとしたい。

それでは、本日のところはいっとき失礼する。御免。

[ライター/伊達軍曹]

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。途中2008年から2011年には編集デスクとして「IMPORTカーセンサー」(リクルート)の創刊準備および編集運用を業務委託として担当。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ってサイコーだぜ!」というのんきなトーンの原稿を各誌やウェブサイトに多数寄稿している。

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