陸前高田に行って思い出した「クルマがあること」の強烈な価値

  1. カーゼニ
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男も50年ほど生きると、うら若きご婦人の裸体ないしは半裸の姿を印刷物等で見かけたところで如意棒はピクリとも動かず、「それより本日の秋刀魚は150円であろうか? 1尾200円か……ちと高うござるな」というような感慨しか沸かない。俗に不感症と呼ばれる状態であろうか。

拙者の場合はクルマに関しても同様で、さまざまのニュウエストモデール登場の報を受けても、心の如意棒はなかなか動かない。それよりも秋刀魚の店頭価格が気になって仕方なき秋の夕である。

しかしこのたび遅めの夏休みを頂戴して東北は三陸沿岸地方を旅したことにより、拙者は再び開眼した。クルマはやはり素晴らしい。いや、「クルマがある生活」というのは本当に素晴らしいと、身にしみて理解したのだった。

たった60kmの移動に、待ち時間も入れると3時間……

三陸地方というと、数年前に放映されたNHKの朝ドラ『あまちゃん』を想起される方も多いと思う。拙者が今回訪問したのは、同じ三陸沿岸でもドラマの舞台となった岩手県久慈市ではなく、沿岸南部の同県陸前高田市である。先の大津波により図らずも有名になってしまったあの町だ。

通常、拙者が陸前高田に行く際はいわゆるマイカーをぶっ飛ばして行くのだが、今回は趣向を変えて鉄道にて行ってみることにした。

東京駅より東北新幹線に乗り一関へ。ここまでは割とサクッと行けるわけだが、そこから先がなかなか大変だ。

1時間に1本ほどの便しかないJR大船渡線のディーゼル列車(2両編成)にてトコトコと気仙沼へ。ちなみに都会育ちの拙者は、ディーゼルエンジン搭載の「気動車」というモノには恥ずかしながら初めて乗った。それはほとんど「レールの上を走るバス」であると感じた。

気仙沼から先の線路は2011年の大津波により完膚なきまでに破壊されてしまったため、気仙沼から陸前高田まではBRT(Bus Rapid Transit)なる代替バスで、これまたトコトコ行くしかない。クルマであれば一関から陸前高田までは1時間程度だが、電車……じゃなかった気動車とBRTによるトコトコ作戦では、待ち時間も入れてざっと3時間ほどがかかってしまう。

モータリゼーションは、大げさにいえば人類の必然

生まれて初めて乗る「単線の気動車」は、決してマニアではないが若干の鉄分を有する拙者にとってなかなか刺激的ではあった。正直、堪能した。

しかしそれは「せいぜい年に一度のこと」だからこその堪能である。

毎日これに乗って、例えばだが陸前高田から一関という(ある意味)都会に出勤するとしたら、果たしてどうだろうか? 1時間に1本ほどのダイヤグラムに常に注意を払いながら、トコトコどんくさい移動を毎日行う。

ハッキリ言ってうんざりすると思う。

これは何も、よそ者である拙者が勝手に失礼なことを言っているわけではなく、現地の人らも恐らくは同様に感じているはずだ。

なぜならば、トコトコ気動車の車内にいるのは18歳未満と思しき高校生らと、クルマの運転は少々危なっかしかろうと思われる高齢者のみであるとほぼ断言できるからだ。クルマの運転ができ、そして何らかのクルマを所有している者はほぼ全員、クルマでスイスイと移動しているのだ。

ドラマ『あまちゃん』のなかで杉本哲太が演じた北三陸鉄道リアス線(モデルは三陸鉄道北リアス線)の大向大吉駅長は劇中、自動車に対して「モータリゼーションめ……」と恨み節を全開にしていた。あまちゃん視聴者として「大吉っつぁん」のキャラクターには当然シンパシーを感じるわけだが、それはそれ、これはこれというか、モータリゼーションの進行は止めようのない必然である。

なぜならば「クルマで移動できる」ということは、1時間に1本のトコトコ気動車と比べるならば「自家用ジェット機とその飛行場を自宅目の前に用意する」ということにほぼ等しいほどの価値があるからだ。

クルマは素晴らしい。たとえド中古ヴィッツでも!

思い起こしてみれば、16歳で初めて400ccの自動二輪車を購入したとき、拙者は「自家用ジェット機」を手に入れたのと似たような感慨を覚えた。や、ジェット機買ったことないので正確なところはわからないが、まるで自らの背中に羽が生えたような気がしたのは確かだ。その後普通自動車の運転免許を取得し、四輪車を初めて購入したときにも、ほぼ同様の感慨を覚えた。

しかし拙者はいつの間にか、それを忘れていた。クルマというか、「クルマがあること」の強烈な価値を忘れ去り、ああだこうだと文句ばかり言っていたのだ。

クルマを買うにはゼニがかかり、それを維持するにもまたゼニがかかる。特に都市部においては地代が高いため「駐車場代」というのがそれなりのダメージとなる。そのくせ都市部は交通渋滞も激しい。

しかしそれでも、「思ったときに思った場所へ、自らの身体をサクッと移動させることができる」という自動車という機械および関連インフラは、人の身体と心に「自由」を与える。その自由こそが、素晴らしいのだ。数十年後には完全自動運転社会が到来するのかもしれないが、現段階においては、クルマというのは車種を問わず、大変に素晴らしい乗り物だ。

「車種を問わず」と申し上げたが、本当にそうである。今回、陸前高田市到着後に拙者が市内で乗っていたのは、走行12万kmのトヨタ ヴィッツ。車両価格10万円ぐらいで買えそうなド中古車であった。

それでも、「ヴィッツがある生活」は最高に素晴らしかったのだ。

[ライター・画像/伊達軍曹]

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伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。途中2008年から2011年には編集デスクとして「IMPORTカーセンサー」(リクルート)の創刊準備および編集運用を業務委託として担当。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ってサイコーだぜ!」というのんきなトーンの原稿を各誌やウェブサイトに多数寄稿している。

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