慢性の「フェラーリF355欲しい病」にかかってしまった事の顛末を語る

  1. カーゼニ
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いちばん欲しいのは、前回お伝えしたとおり空冷ポルシェ911(タイプ964)の上モノ5MTだ。その中古車相場は現在ウルトラ高騰しているが、近い将来、何らかの錬金術を駆使してどうにか手に入れたいと思っている。しかしそれと同時に筆者は、慢性の「フェラーリF355欲しい病」にも罹患している。


photo by Lothar Spurzem[CC-BY-SA-2.0-DE] (Wikimedia Commons)

そのように書くと、「なんだ、キミも清水草一(MJブロンディ)氏が主宰する大乗フェラーリ教の信者だったか」と言われそうだが、そうではない。

筆者が住まう貧乏長屋は東京の「目黒通り」という高級ガイシャ生息地の近くにあるため、ほぼ毎日のように458イタリアやらカリフォルニアやらが爆音とともに疾走している姿を目にする。が、目にしてところで特になんの感慨もわかない。

「あぁ、なんか低くて音の大きな車がすっ飛んでったな。……458かな?」と、おぼろげに思うぐらいだ。そんなおぼろげな思いすらわかないときもある。もちろん嫌いなわけでは全然ないが、なぜだかまったく興味がないのだ。

しかし、そんなわたしでもなぜか恋い焦がれてしまうのがF355だ。


photo by nakhon100 (Wikimedia Commons)

スリーサイズは4250×1900×1170mmということで、冷静に考えればそれなりにデカい車なのだが、そこからさらに大型化した458イタリアなどに慣れた目からすると「可憐なピッコロサイズ!」にすら思える。ステキである。そして全体的なフォルムもどこか可憐で、458イタリアや488GTBがパリス・ヒルトンのガングロ版みたいなものだとしたら、F355の中古車とは「やんごとなき深窓の令嬢が、諸般の事情で地元の公立中学(中古車屋さん)に転校してきた!」みたいなものである。事件である。

そんなご令嬢だが、高回転域までブン回した際の「音」は他のどんなモデルにも負けないないほどの素晴らしきF1サウンド(※キダスペなどの社外マフラーに交換済みな場合)。そして運動性能も、最新世代のガングロ・パリスと比べてしまうとさすがに数段階劣るが、一般的な地元公立中学の運動会であれば確実にリレーのアンカーを務めるだろう。最高である。

「……これはもう買うしかない!」と欲望メラメラの炎を目に宿していたとき、ちょうど某輸入車雑誌の仕事でかなりグッとくる条件のF355を取材することになった。ボディカラーはロッソコルサ(赤)で、ワンオーナーの実走1.9万km。博物館に飾ってみたい感じのコンディションだったが、価格はコミコミで1300万円。……もちろん安い買い物ではないが、これだけの好条件であることを考えれば「相対的には安い!」と言えるのかもしれない。


photo by Alexandre Prévot[CC-BY-SA-2.0] (Wikimedia Commons)

取材後、わたしは長屋に帰ってお金の計算を始めた。が、現実は厳しかった。現在乗っている車の買取査定額は予想の100万円を大きく下回る50万円にしか届かず、家中のブタさん貯金箱を破壊しつくしても、大した頭金にはならないことが判明した。頭のなかで『昭和枯れすすき』が流れた。

「……オレは一生あのF355を買うことができないのか? ド庶民のオレが深窓の令嬢と付き合おうと思ったのが、そもそも間違いだったのか?」

そんな思いをリフレインさせながら、わたしは呆然とゾンビのように街を歩き続けた。気がつくとわたしは渋谷のNHK付近を歩いており、さすがに疲れて腹も減ったため、目についたフレッシュネスバーガーに入ってランチセットを注文した。

ぽろぽろ涙を流しながらクラシックバーガーをほおばっていると、周囲で行われている複数の、ある共通したキーワードに基づく会話が耳に入ってきた。

見ると、ややイケイケなビジュアルの青年や婦女子らが、同年代の青年および婦女子に対して何らかのプレゼンをしている。「夢」「お金」「権利収入」「時間を手に入れる」「ハワイ」などの単語が聞こえてきて、彼らの手元を見ると、何らかのチャートのようなものが確認できた。

「はは~ん」と、わたしは察した。これはいわゆるマルチ商法の勧誘だ。

隣席のイケイケな青年が熱弁をふるっている。「夢は必ずかなう」と。そして、それに付随してフェラーリを買う程度のお金などごく普通に獲得できる、と。

……何をナメたこと言ってるんだこの若造は。すっかり昭和枯れすすきな気分に侵食されていた自分は怒りに震え、普段ならば決して行わない行動に出た。隣席のイケイケ青年に物申したのである。

「ふざけるな! そんなうまい話が世の中にあるわけがないだろう! 人を悪の道に引きずり込むのはやめたまえ!」

腕力にはからきし自信のないわたしゆえ、怒り心頭となったイケイケ青年に殴られて締め落とされるぐらいのことは承知のうえでの発言だ。自暴自棄になっていた。

が、予想に反して隣席のイケイケ青年は落ち着いた口調で言った。

「……どちら様か存じ上げませんが、手前どもがやっているビジネスの内容をよく知りもせずの罵倒、承服しかねます」

し、知ってるよ! どうせインチキでイカサマな何かだろ! よくテレビで見るよ!

「……何か激しく勘違いされているご様子ですね。……どうでしょう、途中からになりますが、あなたもこのプレゼンをお聞きになってみては? それでも苦情や罵倒があれば、甘んじて受けたいと思いますが」

上等だよ、論破してやるよ! と思った自分は、とりあえず彼の話を聞くことにした。

1時間後。わたしの世界観は一変した。素晴らしかった。こんな素晴らしいビジネスモデルを、なぜわたしはもっと早い時期に知ろうとしなかったのか? 愚かとしか言いようがない。ネズミ講的な何かだとばかり思っていたが、そうではなく、人の成功をお手伝いすることで初めて自分も豊かになるという、人類愛が炸裂するビジネスだったのだ。

さっそくわたしは彼(ダイスケ君というらしい)の系列下でサインアップし、各種セミナーに参加して知識を吸収した。「まずは自分で製品を使い、その素晴らしさを実感することが大切です」という講師の言葉は、本当にそのとおりだと思った。浄水器や24時間風呂、美顔器、餅つき機など、主だったプロダクツをわたくしは購入した。どれも素晴らしいクオリティだと思えた。

「商品の良さが実感できたら、今度はそれを小売りしてみましょう。もちろん売りつけるのではなく、あくまでも自分が感激した製品の素晴らしさを、友人にお伝えするのです」という話にも完全に納得できた。わたしは迅速なデリバリーを実現させるため自主的に在庫を持ち、小売活動に励んだ。それなりの利益になった。そして在庫のポイントにより「ダイナマイト・プロデューサー」にも昇進した。

「次はいよいよご友人をこの素晴らしいビジネスにお誘いしてみましょう」。確かにそのとおりだ。こんな素晴らしいビジネスモデルを自分だけでやっていてはバチが当たる。友人知人にどんどん勧めねばなるまい。わたしは渋谷のフレッシュネスバーガーで熱弁を振るった。多くの友人には断られたが、何人かの友人が賛同し、ともに成功を目指し邁進することを誓い合った。

そして今。……何が起こったのか自分でもよくわからないが、わたくしは大量の浄水器や餅つき機が入るダンボールがうず高く積まれた部屋のなかで、これを書いている。


photo by Thomas’s Pics (Wikimedia Commons)

一時はビジネスもかなり進捗し、フェラーリまでは行き着かなかったが、中古のメルセデス・ベンツW212は買うことができた。本当は新小岩の「銭々モータース」で買った修復歴車だが、ダウンラインのみんなには「シュテルンの認定中古車を買った。ちょっと高かったけど(笑)」と嘘をついた。みんな「さすがは伊達さんだ!」と喜んでくれた。無理をして100平米近いマンションも借りた。わたしは「成功者」であらねばならなかったのだ。

しかしそういったすべての無理がたたったのか、いつしかグループは完全に瓦解し、W212も手放した。住まいも現在の貧乏長屋に越した。

どこかでカラスが「かあっ」と鳴いていた。それは、急ぎすぎたわたしを馬鹿にしているようにも聞こえ、「もっとゆっくり、着実にF355を目指しなよ」という励ましのようにも聞こえた。本当のところは、もちろんわからない。

[ライター/伊達軍曹]

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伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。途中2008年から2011年には編集デスクとして「IMPORTカーセンサー」(リクルート)の創刊準備および編集運用を業務委託として担当。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ってサイコーだぜ!」というのんきなトーンの原稿を各誌やウェブサイトに多数寄稿している。

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