1000万円超の「走行2万km台のカレラ2」を買うための、伊達軍曹的マネー戦略

  1. カーゼニ
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そろそろ、もう一度買ってみる潮時なのかもしれない。何をって、5年前まで乗っていたタイプ964こと4世代前のポルシェ911カレラ2をだ。

潮時と思う理由は二つ。一つは、前述のとおり964を降りてから5年が経過したことで、いよいよ禁断症状が激しくなってきたということ。生来の鈍感ゆえ、所有していたときは「うむ、まぁこんなモンかな」という不遜な態度で乗っていたのだが、空冷911というのはいざ手放してみると、実はこの世に二人といない絶世の美女だったというか、ドンズバな好みのタイプであったことを強烈に理解する。

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肥大化した現代のクルマとは比べものにならないほど小ぶりで可憐なサイズ。いちいち重厚な各部のタッチ。のんびり走るのも比較的得意だが、いざ鞭を入れれば「小ぶりで可憐な女性」だなどとは死んでも例えられないほど、やたら強烈で超絶ダイレクトな挙動を見せる、その走り。背後から濃厚に押し寄せるビート感。革とオイルが微妙に交じり合った匂い。

……あーもうオレってバカバカバカ! なんであんなステキな乗り物を、せっかく手に入れたんだからそのまま乗ってりゃいいのに、手放しちまったんだ? 自分の頬とみぞおちに本気の正拳突きを食らわせたい気分である。押忍。

そして「潮時」と思う第二の理由が中古車相場だ。

10年以上前、わたしが専門誌の編集記者として各地のショップでタイプ964の取材をしていた頃は、車両価格おおむね350万円も出せば、まずまず低走行な、そして運が良ければエンジンオーバーホールも済んでいる個体を(もちろんティプトロではなく5MTを)探すことができた。

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しかしその後、皆さんご存じのとおり空冷911の中古車相場はアホほど高騰。良質な物件はとてもじゃないが350万円では買えない状況が出来した。具体的には、ちょっと低走行でフルノーマルの個体だと、5MTで1000万円弱、単なるトルコンATであるティプトロニックでも700万円ぐらいという、頭が痛くなるような相場状況が続いたのだ。

しかし市場には今、微妙な一服感がただよい、一時期と比べれば空冷911の相場も若干は落ち着いてきたように見える。あくまで一例というかイメージだが、走行5万km台ぐらいのノーマルに近い5MTのカレラ2が700万円台……みたいな。

それならばイケなくもない。たぶん。

や、冷静に考えれば、昔は似たような条件のカレラ2が350万円だったのだから、それでも高いは高い。しかし人間たるもの、無駄に冷静になってはいかんのだ。あくまで冷静に高みからチャカチャカと計算し、銀ぶちメガネをクイクイさせているだけの人生などクソつまらんではないか。もちろん冷静さや計算、老後の蓄えおよび国民年金といったものを否定するわけではないが、行くべきときにはアツく行くのが男である。人生である。

「うおおおおおおっ! もういちど買うぜキューロクヨン!!!」

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自宅長屋にてそう吠えたわたくしは、ちょっと冷静になってから財布およびネットの預金通帳を見てみた。

そこには遺憾ながら大したカネは入っていなかった。

なんとかしなければならない。カーセンサーとかの編集部に行って「原稿料を上げろ!」とデモでもするか? ……冷静に考えれば、そんなことをしてもニッコリとポライトに追い返され、その後二度と原稿の発注が来なくなるのがオチだろう。

さて困った……と腕組みをしたわたしだが、ハタと気がついた。「労働」には限界がある、と。労働以外の何か、もっとハッキリ言ってしまえば「資本家」的に、カネにカネを稼がせるような生き方をしない限り、たぶん金持ちにはなれないのだ。

そういえばわたくしはスーパーカー雑誌の取材でいわゆる富裕層の方にインタビューする機会が多いのだが、彼らはほぼ全員、自身の実業に励んでおられるのと同時に「投資」もしている。いわゆる株や為替などの取引だ。やはり「労働」だけじゃ高いクルマなど買えないのだ。そうだそうだ、そうなのだ。

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意を決したわたしは駅前の書店へ行き、『必ず儲かるニコニコFX入門』(銭形金助著・弗円堂出版)なる1冊の本を購入した。「外国為替証拠金取引」の入門書である。

過去お話を聞いた富裕層のなかには、これで実際に億単位の資産を形成した人がいる。そこまでではなくても、わたしの知人にもFXで月30万円ほどの副収入を毎月稼いでいるらしいSちゃんという女性がいる。

「なんでもっと早く始めなかったんだ? まったくバカだぜ……」と独りごちた自分だが、まぁこうして始めたのだから数カ月後には巨万の富を得て、700万円台どころか1000万円超の「走行2万km台のカレラ2」とかを買っていることだろう。くっくっく、笑いが止まらないぜ。

ではさっそく始めようじゃないか。入門書によれば、まずは口座を開設し、いくばくかの種銭を入れるとのこと。国内業者の場合は最大25倍のレバレッジなので、USドルを1万通貨(日本円にして約100万円)売買するのに4万円ほどの種銭で済むらしい。ふむ、なるほど。じゃ、とりあえず虎の子50万円を口座に入れてみますか。

とにかく安いところで買って高くなったら売るか、もしくは逆に高いところで売って、安くなったら買い戻すことでお金が生まれるらしい。前述の入門書によれば「押し目」「戻り」「三尊」「逆三尊」「カップ・ウィズ・ハンドル」「移動平均線のゴールデンクロスおよびデッドクロス」「グランビルの法則」などいくつかの典型的なパターンがあり、それを見つけて入ればおおむね上手くいくのだそうだ。

なるほど。自分はこう見えて意外とアタマが良いほうなので、それらのパターンは本をパラパラっと素読しただけですべて記憶できた。楽勝である。あとは実際にポジションを持って稼ぐだけだ。

PCを立ち上げ、ドル円のチャートを開く。……さっそく、先ほどの本に「レンジブレイク」と書かれていたパターンが出現しているのが確認できた。……「買い」でINだ。わたしは1万通貨、いや、そんなショボい単位でやっていても911など買えないので、とりあえず10万通貨(約1000万円)のUSドルをポチッと買った。

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なぜかは知らないが、それまでグイグイ上昇を続けていたチャートはわたしがクリックした瞬間に動きを止め、それだけならまだしも、数秒後には逆方向へと猛烈な勢いで動き始めた。PCに表示される含み損が▲5000円、▲6000円、そして▲12000円と急激に増えていくにつれて恐ろしくなったわたしは、先ほどの本に「FXでは損切りが重要です」と書かれていたことを思い出し、とっさに「売り」をクリックして損切りを実行した。初戦の損失額は結局▲2万7000円だった。

……おそらく、レンジブレイクですぐに入ってしまい、押し目(一時的な下落)を待たなかったのが敗因だろう。それさえわかればもう大丈夫だ。わたしは押し目を待った。

おあつらえ向きの押し目が出現したように見えたため、すかさず10万通貨の買いでIN。が、わたしが押し目だと思ったのは実はトレンドの転換点だったらしく、その後チャートはひたすら下方向へ進んだ。含み損が5万円を超えたところで損切りを実行した。

「……もっと落ち着いて押し目を見極めないといけないな」と反省したわたしは、次のレンジブレイクを待った。しかしブレイクしたチャートはいっさい止まらず、延々と上昇を続けた。「ヤバい、乗り遅れる!」と思ったわたしはあわててINしたが、わたしが買うとチャートはなぜか急激に止まり、逆方向へと反転を開始した。「ま、押し目だろ」と思って様子を見たが下落はいっこうに止まらず、含み損は10万円に達した。

何をやっても裏目に出た。買えば下がり、売れば上がった。

「……ん? てことはオレが上がると思ったら売って、下がると思ったら買えばいいんじゃない? 要するに負け確率100%なんだから、オレが考えたことの逆をやれば勝率100%ってことじゃん! やった、これで億万長者だ!」

しかしそれはぬか喜びで、思った方向と逆方向にINしてみると、チャートは当初考えたとおりの方向へビュンッと飛んでいった。「やっぱオレの読みどおりのほうがいいのか?」と思うと、今度はやっぱり逆方向に行った。気がついてみれば、当初入金した50万円はとうの昔になくなり、追加で入金した50万円も底をつきようとしていた。

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もういちど空冷ポルシェ911に乗るための道のりは、思いのほか険しかった。が、「しかし絶対にあきらめない!」と、わたしは長屋でひとり絶叫したのだった。

[ライター/伊達軍曹]

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。途中2008年から2011年には編集デスクとして「IMPORTカーセンサー」(リクルート)の創刊準備および編集運用を業務委託として担当。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ってサイコーだぜ!」というのんきなトーンの原稿を各誌やウェブサイトに多数寄稿している。

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