カーシェアリングを使ってわかった、自分の「クルマが好き」マインドのスイッチ

  1. カーゼニ
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今、なぜか知らねど「不幸」について考えている。や、より正確に言うなら「好き」という一見ポジティブなマインドこそが、実は「不幸」というネガティブなステイタスを人間に引き寄せているのではないか……という疑念だ。

無知ゆえの幸せ。有識者の不幸

例えば自分の場合、ファッションにはさほどの興味も知識もない。本日着用しているモノなど、下方向から順に並べるなら、

・コンバースの黒いズック靴(6000円ぐらい)
・ユニクロの靴下(3足1000円)
・ユニクロのサルマタ(1枚500円ぐらい?)
・ユニクロの黒いズボン(4000円ぐらい)
・ユニクロのスーピマコットンVネックシャツ(1枚800円ぐらい?)
・ユニクロの白いシャツ(たしか2000円ぐらい)
・パタゴニアのマウンテンパーカ(よく覚えてないが2万円ぐらい)
・どこかの夜店で買ったニット帽(600円ぐらい)

である。さすがに上っぱりまでユニクロというのは少々はばかられるため、自分としては大枚の金弐万円也を投じた美国・加州のパタゴニアを着用したが、それ以外は「ほぼ全身ユニクロ」だ。それでも自分は衣服に対して特に興味も知識もないため、何の問題も疑念もなく、天気が抜群に良かったこともあって、大変なハピネスを感じながら今日という1日を過ごすことができた。

だが、もしも自分がいわゆるファッションに深い造詣と興味を持っている人間であったなら、決してハピネスは感じなかっただろう。

値段からすれば粗悪ということもないのだが、それでも一流品と比べるなら断然イマイチなユニクロの素材とイマイチな縫製、そしてタイトなブランド品と比べると緩すぎるシルエットなどを、その深い造詣と知識により的確に認識してしまうため、「あぁ、ボクはなんだってこんなダサい格好で天下の往来を歩かねばならないのだ。恥ずかしくてたまらない。や、他者の目ウンヌンの前に、ボクのファッショニスタとしての矜持がこの状態を許さない。……よし、死のう」などと、一気に自死の線まで行ってしまう可能性すらあるだろう。

これすなわち、衣類に対する「好き」が引き寄せてしまった「不幸」である。

だが自分もクルマについては有識者だった

自分はそのようなことをおぼろげに考えながら、「ファッショニスタさんも、いや、ファッションに限らず何かが大好きだったり詳しかったりする人というのもなかなか大変ですのう。しかし自分は何に対してもさほど詳しくないボンクラなので、逆にエブリデイ幸せですよ。愚か者の勝利っつーんですか? うわっはっはっはっ」などと大声で独り言を述べつつ、快晴下にしてガラ空きの東名高速をカーシェアリングカーの日産ノートにて快調にぶっ飛ばしていた。

が、そこでふとした感慨にとらわれた。

「……しかし面妖な。自分は今、全身ユニクロであってもスーパーハッピーな心持ちであるはずなのに、このイヤ~な黒い気分はどこからやって来るのだろうか?」

考えるまでもなく、その原因はカーシェアリングカーの日産ノートにあった。や、ここでノートの罪を問うのはフェアではないだろう。これはこれで悪くない実用車なのだから。ユニクロの衣服が、決して悪くない実用服であるのと同じ意味で。

真の原因は、自分の「クルマが好き」というマインドにある。

好きゆえに、自分はそれなりにクルマに詳しい。や、ディープなマニアが多いと思われるCL読者諸兄と比べるとそんなに詳しくないかもしれないが、それでもそのへんのおっさんと比べるなら「断然詳しい」とは言えるはずだ。

そしてそれゆえ、これまでにさまざまなクルマに乗り、造詣を深めてきた。自分のゼニで購入したのは下は50万円から上は600万円に過ぎないが、業務として試乗したものまで含めるなら、下が数万円で上が数千万円となる。

そうであるがゆえに、日産ノートのアラが見えまくって仕方ないのだ。

執着を捨てろ、馬鹿になれ

前述のとおりノートはノートで全然悪くない実用車である。フツーに走ってフツーに曲がり、フツーに止まる。e-POWERではなかったが燃費だってまずまずだ。茅場町の専門商社に勤めるOL・中西沙耶(23歳・仮名)にこれを運転させたなら、「ぜんぜん悪くないじゃん? これでなんの問題あるの? ていうかクルマにこだわり過ぎるおじさんってウケるんですけど。正直キモい」と言うことだろう。

確かに沙耶(仮名)の言うとおりだ。ウケる。キモい。ある意味どうでもいいことにこだわりすぎ、せっかくごく普通に、快調に、我が身を遠き場所までスムーズかつスピーディに運んでくれる新式の機械に乗っているというのに、やれ「舵を与えたときの一瞬の応答の遅れが」とか「目地段差を越える際の収束具合が、同セグメントの欧州車と比べて……」などと独りでブツブツ言っているのは、キモいことこの上ない。

もっとこう、悪いところではなく良い部分にこそ目を向け、まるでユニクロの衣服に対して思うように「とはいえ普通に用は足すし、死にたくなるほど悪いデザインでもないし、そして本日の天気は最高だし、自分を含む万物が光り輝いているではないか。父よ、母よ、生きとし生けるものよ!」という具合に物事をとらえることが、つまり「こだわりをなくすこと」こそが、我らの幸せなる日々をクリエイトするのではないかだろうか。

もっと難しい言い回しではあったと思うが、お釈迦様も「執着をなくせ」という意味のことをおっしゃった。そしてアントニオ猪木は「馬鹿になれ」と言った。

うむ、了解した。わたくしもこだわりをなくそう。馬鹿になろう。動かないクルマは別として、普通に動く限りはすべてのクルマを肯定しよう。そうだそうだ、そうしよう。

しかし「こだわり」はそう簡単に捨てることができず

そんな決意とともに自分は日産ノートに再び鞭を入れ、次なる取材先である神奈川県内の某ポルシェセンターへと急いだ。ノートは東名高速をよく走ってくれた。いろいろと若干ダルだが、それはそれとして、十分に働いてくれる愛おしい機械だった。少なくとも、そう思おうとした。自分はこだわりを捨てるのだ。幸せになるのだ。

そしてポルシェセンターに到着。取材の主たる目的は現行世代のポルシェ各モデルについてであったが、ディーラー内の一角には「Porsche Classic」と名付けられたコーナーがあり、そこには大層美しいオリジナルコンディションの、92年式と思しき964型ポルシェ911が参考展示されていた。

……一瞬にしてそれに魅了され、そして最高レベルの「こだわり」を再び発動させてしまった自分は、そのまま近隣の相模川に日産ノートを打ち沈めた。そのうえで電車および徒歩にて自宅長屋へと帰った。

後日、カーシェアリング会社から多額の損害賠償請求が届き、そして相模川の保守管理を担当している自治体からも同様の請求があるはずで、自分は近いうちに破産することになるだろう。だがそれもやむなしである。この年までクルマとともに生きてきた自分は、クルマとともに修羅の道を行くしかないのだ。茅場町のOLに「キモい」と言われながら、そうするしかないのだ。ないのだ。ないのだ。(←デジタルディレイ)

[ライター/伊達軍曹]

伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めたのち、フリーランスの編集者/執筆者として2006年に独立。途中2008年から2011年には編集デスクとして「IMPORTカーセンサー」(リクルート)の創刊準備および編集運用を業務委託として担当。現在は「手頃なプライスの輸入中古車ってサイコーだぜ!」というのんきなトーンの原稿を各誌やウェブサイトに多数寄稿している。

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