クリーンディーゼルの未来にも暗雲?フォルクスワーゲン不正問題の影響を考える

最終更新日: 公開日:2015-10-14 | Posted in テクノロジー by

9月19日、独フォルクス・ワーゲン社のディーゼルエンジン搭載車について、米国での排ガス検査をくぐり抜けるための不正なソフトウェアを使用していたというニュースが世界中を激震させた。世界No.1を争う巨大自動車メーカーのスキャンダルは、これまで高い評価を集めてきたクリーンディーゼルの未来にも大きな影響を与えている。

検査逃れの不正ソフトウェアを搭載

今回問題になったのは、米環境保護局(EPA)による、フォルクスワーゲンへの告発だ。同社は4気筒ディーゼルエンジン「EA189」に、検査パターンの際にのみNOxの排出力を極端に抑制するようなプログラムを搭載。米国の環境基準「Teir2 Bin5」を不正にくぐり抜けるような措置が行われていたことが明らかになったのだ。このエンジンは1.4〜2.0Lのバリエーションで、ジェッタ、ゴルフ、ビートル、アウディ A3などに搭載されている。

事の発端は、先日、本誌のクリーンディーゼルに関する記事でも軽く触れた、国際クリーン交通委員会(ICCT)によるディーゼル車の実装調査だ。この調査では、シャシダイを使って特定の走行パターンでのテスト結果を計測する「EURO06」(欧州の基準値)や「Tier2 Bin5」とは異なり、実際に市街地を走行させ、その排ガスを収集して計測するという、徹底した実証実験を行った。その結果、フォルクスワーゲンのエンジンでは規制値の実に約40倍ものNOx排出が確認されたというのだ。


▲ICCTが発表した資料より。この図でいえば「H」や「L」が「EA189」を搭載していたと見られる。(ICCT公式資料サイトより)

米国の規制値は世界水準からしても厳しく、シャシダイと実走で違いが出るのも広く知られているが、さすがに40倍というのは差が大きすぎる。EPAの調査に対し、フォルクスワーゲンは2008年から、検査時にのみ理想的な燃焼パターンを行う不正なエンジン制御ソフト(Defeat Device)を使用していたことを供述したのだ。

フォルクスワーゲン グループが及ぼす影響は、全世界1100万台に


(VW Group公式サイトより)

これを受けて、EPAは米国で販売された48万2000台に対して規制値を満たすよう改修することを指示した。さらに今後の調査が進めば、制裁金が科せられる可能性もある。ちなみに米国での制裁金は1台あたり3万7500ドルと言われており、48万台では単純計算で2.1兆円以上となる。フォルクスワーゲングループの純利益が1年分以上、軽く吹き飛ぶ計算だ。

当初は米国向けの車両のみが対象とされてきたこの問題も、調査が進むにつれて対象がどんどん広がり、結局はEA189エンジンを搭載する全数である、世界約1100万台が対象であることが明らかになった。当然、これにはフォルクスワーゲンの母国であるドイツを含むEU市場が含まれている。フォルクスワーゲンは対策費として65億ユーロ(約8700億円)を引き当てる計画を発表したが、各国は個別にリコールの指示や制裁金を検討しており、まだまだ費用は膨らむ一方。さらに問題の発覚以来、約3週間で株価は40%も下落しており、企業価値は4兆円以上も下がっている。

実は、ドイツ政府も2011年には問題を把握していたという情報もあり、自国の巨大企業相手に政府が黙認してきたとすれば、政権にとっては大きなスキャンダルとなる。こうなると一企業の問題では済まなくなってきている。

クリーンディーゼルの命脈が絶たれる?

そもそも、クリーンディーゼルは、年々厳しくなる環境規制に対し、対応できない欧州自動車メーカーが苦肉の策で生み出した「延命措置」だった。温暖化問題などに対応するにはハイブリッド化や電気自動車、燃料自動車への移行が最終的には必要であるのは明らかなのだが、そうした基礎技術をほとんど持たず、日米のメーカーに主要な特許を抑えられている欧州メーカーにとって、得意なディーゼル技術を改良して対抗する以外に道はなかった、というのが実情だろう。

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この記事の筆者:海老原 昭

IT業界を中心に、政治経済からオタク業界まで、基本なんでも屋のフリーライター。輸入車のマニュアルや...