まさに理想のアシグルマ「ポルシェ964」試乗日記

最終更新日: 公開日:2014-10-16 | Posted in 試乗レポート by

憧れのポルシェ964と短い夏休みを一緒に過ごす

このクルマはネオクラシックではなく、現代でも通用する

1990年代の幕開けを目前に登場した新時代のポルシェ911は、北米での根強い人気と、それでも慢性的に鈍っていた新たなマーケットの模索という二つの背反する使命を背負わされたために、サイズはそのままながら、およそ80%にも及ぶパーツが一新されました。世の中、「実際はそれほど新しくないでしょう・・・」と指摘したくなるようなクルマでも、形はさほど変わっていないものも案外散見されるものですが、このニューモデル、実に手が込んだアップデートだったことがわかります。そんな911こそ、964型と呼ばれるこのモデルなのです。

ハイパワー時代に備え、911初の4輪駆動モデル「カレラ4」でスタートを切ったポルシェ964、やがてマニュアルシフトモードを持つオートマチック「ティプトロニック」モデルも登場。パフォーマンス的にも快適性やイージーさでも、その後の911の基礎となるラインナップはこの当時できました。正直この頃国産車でもR32スカイラインGT-Rなど、ハイパフォーマンスなクルマが登場したりしていました。その意味では空冷エンジンNAでは最大排気量3600㏄のエンジンを載せたこのモデルでも、さほどその性能面で突出したものはなくなってしまいます。でも、当時のこの964型911、ひたすらに速く走るだけのスポーツカーというのとは一風変わった立ち位置が妙に魅力的に見えたものです。その落ち着いた、というか、子供っぽさのない大人な雰囲気で、見過ごせない存在感がとても好きなクルマでした。いつしか「憧れの911」へと変わり、少し古いドイツ車への憧れの中で、このクルマの存在は動かしがたいものとなっていったのです。

都内の道も空いたお盆の真っ只中、そんな憧れのポルシェ964と短い夏休みを一緒に過ごしましたので、試乗レポートをまとめておきたいと思います。お借りしたクルマは1991年式のカレラ2のマニュアルトランスミッション仕様です。

重いからこその軽やかさ

クラッチが重いからこその軽やかさ

まず乗り込んでクラッチを踏んでの驚き「重い!」のです。絶対的な踏力、確実に重たいのです。そしてストロークの大きめなそのペダルに、はじめやや焦ったことは確かです。しかし、しばらく乗っているうちに、このクラッチこそが胆なのだということに気が付いたのです。

リアの水平対向エンジンは3600㏄のSOHC。小さなボディにこのエンジンは、まともなバランスを考えると過分です。しかし、いろいろなステージにクルマを持っていくとわかるのが一般論では過分なそのバランスは「911には必要なこと」なのだということです。極めてトルクフルなこのエンジン、クラッチを切りかけるとアクセルを踏み込まなくても前に動きます。平地はもちろん、246の渋谷宮益坂上の交差点くらいの傾斜だと、アクセルを踏まなくても半クラッチ状態でクルマは動き出すのです。だから少し慣れると、「登坂発進」に妙な強迫観念を覚えることはなくなります。半クラッチで少し動き始めたら、極めて微妙なアクセルの踏み込み具合で加速を表現できるアクセルワークとのコンビネーション。これにより、ちょっとしたオートマチック並みの滑らかな滑り出しが可能になることに気が付いたのです。

この微妙な「表現力」の上で重要な役割を果たしているのが、『しっかり重い、踏込とリニアに切り繋ぎが可能なクラッチ』なのです。何度も言いますがトルクもかなりあり、その当時他車の最高出力にかかわらず、絶対的には排気量も過分なら、当然パワーも余りあるものです。しかし、厳密に表現すると「懐の深いエンジン」ということができるのです。各ギア、1000回転前後での巡航が可能で、その時点で必要にして十二分なトルクがあるので、仮にギアをそのままにしておいても加速していくのです。まるでディーゼルエンジンかOHV車にでも乗っているかのような、回転領域での乗り味の望外のジェントルな様に実は「爽快なショック」を覚えたのです。

こういう懐の深いエンジンの、微妙な各々の部分での出力特性をしっかり的確に引き出せるためには、スカスカな軽いクラッチというわけにはいかないでしょう。このクラッチのおかげでまるで「自動変速しないマニュアル」ではなく「オートマチックなんかよりもよほど『わがまま』に応えてくれる安楽ギア」だと思いました。このかなりに乗る前は、カレラ2のマニュアルはどうもスムースに走らせるのが難しいと先輩車好きからは聞いていたので、なんだか気負っていたのですが、5速1000回転を目黒通りで50キロで流す心地よさの、何ともいえないところに気づいてしまったのは、今回最大の収穫だったといえるでしょう。

ポルシェが表現したかった「理想のクルマ」

ポルシェが表現したかった「理想のクルマ」がこのサイズに詰まっている

これも正直意外な感覚でした。「ポルシェなんか乗ったら高回転を追い求めたくなって仕方ないだろう」と私自身も予想していましたが、前述の驚きに比べると、高回転へのこだわりはさほど喚起されなかったというのが正直なところです。

40キロからでも80キロからでも同じように加速していく

街中で、渋滞で、のろのろと走らせていたところからそのまま踏み込むと、40キロからでも80キロからでも同じように加速していくのです。しかし、積極的に高回転域だけで走りたいと思わせるフィーリングなのです。それにはハンドリングも影響しているのではないかと思います。リアエンジンリアドライブ(RRレイアウト)のアドバンテージで、丁寧に加速していったときの後輪のグリップは素晴らしいものですが、今のクルマに比べて、直進安定性が特別いいというわけでもありません。

これはアビリティとしては問題ないのですが、それにもましてスポーツカーにカテゴライズされることの少なくないことに因るイメージの問題もあるとはいえ「ポルシェ=高速域がメインステージ」という先入観を、この964カレラは覆してくれました。ただ、どこからでも素晴らしい加速を見せるのと、そういう走りにも付いてくるアシはホンモノ。このクルマの十二分な性能は、日常域から至急目的地に急行しなければならない緊急事態まで、しっかりこなせるクルマでした。そして万が一のことを考えて「大は小を兼ねる」という思想はなく、むしろ最小限の器で成立させた「等身大で完成させた最高の実用車」であり、ポルシェが表現したかった自動車の理想形がここにあるのだ、ということにようやく合点がいった気がします。

964はれっきとしたクラシックカー

ポルシェ964はれっきとしたクラシックカーである

よく、この964型911は「ネオクラシック」であるとメディアには取り上げられています。ほどほどに古くて、しかし現代の感覚で使えて、現代の交通事情にも通用するモデルとして、旧車入門にて人気のあるカテゴリーです。私もそう思って興味を持ってきた部分もあるのですが、乗ってみて思ったのは、このポルシェ964はネオクラシックなんかではなく、れっきとしたクラシックカーだ、と強く感じたのでした。ただし、なかなかこういうクルマはないかもしれませんが、現代の交通事情でも十分通用し、機械的に細部にわたるまで説得力に満ちたクラシックカーだということです。

パーツは新しくなったとはいえ、初代から変わらぬ位置、大きさ、窓から吹き込む風は懐かしさにあふれ(エアコンはしっかり冷えましたがあえて窓を開けたくなるクラシックな風情でした)、とても重い操作感ながら、けっして不自然なギクシャク感を伴わない操作系。何よりあの大きさ。「すべてが手の届くところにある」コンパクトなサイズ。サンルーフの挙動、ワイパーのスイッチ、ワイパーの動き、ドアの建付け・・・すべてにおいて「どこかでこの感触あったような・・・」という流用感のない、完全オリジナルあらゆる「動き」。明らかにもはや完全なクラシックカーの世界です。

しかしながら、いざ町へ乗り出すと、このクラシックなフォルムゆえ、極めて見切りのいいボディ、この個体のコンディションが良かったこともあるのでしょうが、1000回転以下でデロデロと流しても使えるエンジンの懐の深さ。そんな回転数で用をなすので、四半世紀近く前の3600㏄のクルマながら、燃料計半分で静岡往復ができる低燃費には驚かされました。何から何まで思わず笑いがこみあげてくるほど、街中でも乗りやすく、そのまま高速道路でも乗りやすいクルマでした。

空冷ポルシェは今再びブームに

空冷ポルシェは今再びブームに突入しています。しかし、新車もかなり高価になった今、これを愛車にするのもありではないか?そう思わずにはいられませんでした。崇高な志、孤高の存在感。全くもてあますことのないコンパクトな名車と呼べるクルマをアシにする。どのみち自動車の依存度は昔に比べ低くなりました。クルマに乗ることが「ハレ」なのです。「ハレの日」に、自分の心も華やかにするものを、この実にシンプルで旧態依然としたクルマは持っていました。週末メインだからこそ「現代に通用するクラシック」なポルシェ、無敵な存在ではないか。そんなことを感じた一週間でした。

[ライター・カメラ/中込健太郎]

編集前記:「私の憧れ」それがわたしにとってのポルシェ964

物心がついて、クルマの雑誌などを読み、そのころに登場したのが964型のポルシェ911でした。おそらく言葉もろくに喋れたかわからない頃から「あのカタチ」がポルシェだ。911だ。という認識は持っていたと思います。でも、それはどこか地味で、他のラテンのスポーツカーとは異なる印象を持ったというのが正直なところでした。正直どこかあか抜けない、古臭いクルマ。すでに私の中では、当時すでに必ずしもフレッシュではないという意味を込めて「名車」に奉っている911観が芽生えていました。それが23年前、当時はまだ稀有な存在だった、スポーツカーの範疇のクルマで4WDを採用した911が、だいぶ目新しい意匠をまとって登場した時「ようやく時代に追いついた」という感覚を覚えたのを思い出すのです。

ポルシェ964試乗前記

911カレラ4からスタートしたポルシェ964型911。ただ、ボディの基本はナロー時代から脈々と受け継いできた、日本風に言うと「5ナンバーサイズ」なボディながら、全体の印象を支配する当時風のデザインに部分的にアップデートされた、アルミホイールやバンパーなどのおかげで、新車当時から「クラシック」というアイコンを内包したクルマだったと今になってみれば思うのです。次第にその独特の存在感が私の心に訴えかけてくるようになり、それまでに感じたことのない「911への憧れ」を抱くようになったのでした。

1990年代までのドイツ車は、コストや手間などの点で他を圧倒する堅牢で強固な自動車でした。ポルシェはそれまでが930型、70年代から作られているデザインはさすがに古く、そうした同時期のドイツ車の中にあっては、機械として圧倒するものが、子供だった私にはイマイチ伝わらなかったのだと思います。一転ポルシェ964は、むしろ俊足のスポーツカーとしてのアピールというよりは信頼性の高い頼れる実用車という雰囲気になりました。そうした変更が、僕の中での「憧れの先にあるドイツ車像」にミートしたのかもしれません。

小さなボディに、結果的には空冷のベースモデルのエンジンとしては最大の排気量を誇る、水平対向3600㏄エンジンを搭載。また華奢で急峻なショルダーラインが愛らしいそのフォルムには質感的に追いついたドイツ車の中にあってもなお、稀有な個性を放っていました。そんなところから、今でも憧れの911というとポルシェ964というまでになっていったのでした。

ポルシェ964試乗前記

こんなポルシェ964と、今年のお盆、一緒に暮らすことになりました。まさに夢のようです。そんなに面白くないよという人もいるし、スムースに動かすのが大変、という人もいます。いやいや、こんなに乗りやすいクルマはないという人もいました。一方、ポルシェのテストドライバーは猛者で、テストコースでギアボックスを壊すまでテストして、市販車にはそれでも壊れない頑丈なミッションを載せている・・・ほんとかウソかわからないような噂の又聞きのようなことまで、いろんな記憶が呼び起されて、それはもうその日が来るのが楽しみで仕方ありませんでした。

うまく運転できるかなあ・・・私なんかでいうことを聞いてくれるかしら。23年経ってもなお、対面する前の日に、もう40も見えてきた男がそわそわできるクルマ。少年に戻れるクルマだということは、乗る前をふり返って、大いに特筆すべきことではないでしょうか。クルマに限らず、なかなかこんなことってないのですから。魅力が風化しないクルマ「ポルシェ964」と交通量の比較的少ない都内を中心に過ごそうと思います。

最後に、以前メルマガで配信した車悦記事を紹介します。時代が変わってもポルシェの魅力は普遍であり、期待がもてる、それが人気の要因なのかもしれません。

ポルシェ911を不死鳥にしたレジェンド。それが「964」

911を不死鳥にしたレジェンド

ポルシェ911と言えば疑う余地のない名車中の名車、そういうことができるでしょう。誰が見ても911と一目でわかるフォルム。水平対向エンジンをリアに搭載、独特の安定性と高速移動のためには譲れなかった伝統のレイアウト。根強いファンに支えられ、また多くのクルマ好きから認められた特別な存在、それがポルシェ911と言えるでしょう。

しかしそんな911はここまで順風満帆だったかといえば必ずしもそうではありませんでした。1980年代から90年代に入るころ、ポルシェは業績不振に悩まされていました。フロントエンジンの944や928などを発表、一時は「ゆくゆくはRR+水平対向エンジンの組み合わせは終焉を迎えるだろう」といわれた時期さえありました。しかし、そんな時に登場したのが964型911なのです。

930から移行するに際し、まず911初の4輪駆動車「カレラ4」をリリースします。そして順にラインナップが広がり、後輪駆動モデルのカレラも「カレラ2」と名前を変え、964型に移行しました。この「カレラ2」には「ティプトロニック」を搭載しました。そしてターボ、タルガ、カブリオレと豊富なラインナップを展開しました。

964タイプは、この頃から続々導入されていた、電子デバイスと安全安定志向ゆえに、当時は「面白みでは930の方が上」といった声も聞かれました。業績の回復もままならない状況で、工場の余剰設備でメルセデスベンツのW124のスペシャルなモデル「500E」を生産していたほどです。しかし、間違いなくこの時の迷いや、低迷に耐えたことが、今日の911の源泉になっているに違いありません。

新しいモデルの中でも、ポルシェ911は依然色褪せぬ魅力を持っている

911を不死鳥にしたレジェンド

最近ではポルシェのラインナップは多岐に渡り、SUVのカイエン。そしてパナメーラ。911よりも低価格帯のボクスター/ケイマンに加え、SUVでもコンパクトなマカンが登場しました。いずれも好調なセールスをたたき出し、ポルシェ全体でも過去最高の販売台数をここ数年は塗り替え続けている状況です。

その新しいモデルの中でも、ポルシェ911は依然色褪せぬ魅力を持っています。後輪に十二分に荷重がのりますから、しっかりとトラクションがかかります。リアエンジンであるがゆえに加重移動など基本の操作を確実に行わないと速く走ることはできない。まさに唯一無二の個性と言ってよいでしょう。

しかし現在そんな911があるのは、間違いなくこの964の存在が重要な通過点だったことが間違いありません。そしてのちのポルシェの飛躍があったからこそ911は不死鳥のようであり、964はレジェンドになりつつある。そういっても過言ではないように思います。単なる焼き直しのモデルチェンジではなく、目先のセールスだけを見るのではなく、時代に即した911像、高性能車像を模索したからこそ、964が誕生したのです。当時の964のラインナップこそ、今の911のラインナップの始祖であり、964があったから今の911がある。そして今のポルシェがあるのだといっても過言ではないのではないでしょうか。

日本ではジャストサイズともいえるボディサイズは、エンジンの排気量の関係から3ナンバー車しか存在しないのはいうまでもありませんが、全長4.7メートル×全幅1.7メートルいわゆる「5ナンバーサイズ」に相当のゆとりをもって収まるサイズです。これは使い勝手の点でも他のクルマどころか、この後の911のいずれにもかなわない964以前の911ならではの「美点」といってもよいでしょう。

ひところ安定したかのような964の流通価格も、ここへ来て再び高めに推移している模様。空冷ポルシェでATも選べ、この国で使うには至便な964は「日常のアシにも使えるネオクラシック」としても人気の一台なのです。いいクルマがかなり減ってきているものの、市場に出るといいクルマは、たちまち買い手のつく状況です。買うなら今。ということは、売るなら今。そんな状況であるといえるかもしれません。そして今でも憧れの一台だったりするのです。

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この記事の筆者:中込 健太郎

大手自動車買取販売会社で、クルマの売買業務を経て、本社マーケティングチームに異動。WEB広告を担当し...