メルセデス・ベンツの光と影。不朽の名車300SLと、悲運のレーシングマシン300SLRに迫る

公開日:Posted in ドイツ現地レポ by

メルセデス・ベンツの歴史を語る上で欠かすことのできない名車、300SL。メルセデス・ベンツの歴史上、初めて「SL」の名が冠されたそのクルマは、流麗なデザイン、先進的なエンジン、当時の世界中のセレブたちがこぞって買い求めたというステータス性により、今では最も価値のあるクラシックカーのひとつとして知られています。そして、300SLと「まるでエボリューションモデルのようなネーミング」を与えられたレーシングカー・300SLRも、当時を振り返る際には外せない存在です。300SLと300SLR、名前こそ似ていますが、生い立ちは全く異なる2台をご紹介します。

300SLのルーツはレーシングカー

メルセデス・ベンツ 300SL(W194)
▲300SLのクーペ・モデル。ガルウイングドアが目を引きます

第2次世界大戦後、メルセデス・ベンツのモータースポーツ部門は1951年から活動を再開しました。

1952年シーズンに間に合わせるために、セダンである300リムジン(W186)のエンジンや足回りを流用して新設計のチューブラーフレームに組み込み、応力を負担しない車体外皮は軽量なアルミニウムで仕上げました。「SL = Super Leicht(超軽量)」の名前の通り、車重をたった870kgに抑えた300SLプロトタイプ(W194)は、ワークスとして出場した1952年のル・マンで1-2フィニッシュを達成。ドイツ勢として初優勝を飾ります。同年のミッレ・ミリアでは2位と4位に入り、メキシコで開催されていた同じく公道レースのカレラ・パナメリカーナ・メヒコでは優勝するなど、各地のレースで大成功を収めました。

メルセデス・ベンツ 300SL(W194)
▲タイヤ上部のフィンも特徴的ですね

メルセデス・ベンツは300SLプロトタイプ(W194)を市販化する予定はなかったようですが、アメリカのディーラーからの説得により、2年後の1954年ニューヨーク・インターナショナル・オートショーで300SL(W198)として鮮烈にデビュー。低く流れるようなスタイリングは、見る者に衝撃を与えました。大変高価なモデルでしたが、公道を走れるレーシングカーとして人気を博し、クーぺ・モデルは1400台が生産されました。1957年にはロードスター・モデルが登場、1963年までに1858台を製造して生産終了となっています。

メルセデス・ベンツ 300SL(W194)
▲クロームが多用されたインテリアも美しいです。クーペ・タイプは小さな三角窓とルーフ後端のエア抜きしかなく、エアコンもないため、エンジンの熱が車内にこもって夏はかなり暑かったとか

300SLのスタイリングで最も目を引くのは、開放するとカモメが翼を広げたように見える「ガルウイングドア」でしょう。細い鋼管を溶接で繋げたチューブラーフレームで剛性を確保するためには、どうしてもドライバーの真横にもフレームを通すしかありません。しかしその構造にすると、通常のドアで言うところの敷居(サイドシル)が高くなりすぎて乗り降りしにくいため、苦肉の策として採用されたのが跳ね上げ式のドアでした。レーシングカーではそれで良かったのでしょうが、市販した際にやはり問題となったのか、前に折れる構造のステアリングを採用して、少しでも乗り降りが楽になるような工夫がされています。

メルセデス・ベンツ 300SL(W194)
▲クーペ・モデルの見るからに分厚いサイドシル。優雅に乗り込むのは難しかったでしょうね

メルセデス・ベンツ 300SL(W194)
▲300SLのチューブラーフレーム。細いパイプの溶接の手間を考えると、市販車には向かない構造なのは一目瞭然ですが、このフレームこそが300SLを特別にした一因でもあります

300SLプロトタイプ(W194)から豪華になった内外装に起因して、車重も増加。その車重増に対して行われたのが、エンジンのさらなるパワーアップです。300リムジン(W186)から流用した2996cc直列6気筒SOHCエンジンは115psでしたが、300SLプロトタイプ(W194)では、レース用にチューニングされ171psを発揮。市販型の300SL(W198)では、ボッシュ製の燃料直噴システムを世界で初めて採用し、215psまで出力を高め、最高速度を260km/hまで伸ばしました。300SLは文字通り、当時世界最速の市販車になったのです。

アメリカで大人気!300SLロードスター

メルセデス・ベンツ 300SL(W194)
▲300SLロードスター。ヘッドライトやバンパーの形状も細かく異なります

1957年から1963年まで生産された300SLロードスターでは、特徴的なチューブラーフレームが設計し直され、ドアの開閉も一般的な方法に改められました。敷居の高さは多少解消され、窓も開閉できるようになったことから、日常的な使い勝手はクーペ・モデルに比べ向上。1961年からは4輪ともディスクブレーキが採用されました。ロードスター・モデルは特にアメリカで好評だったようです。

メルセデス・ベンツ 300SL(W194)
▲優美なリアビュー。イタリアンデザインとも趣の異なる、ドイツのクラシックなデザインの傑作だと思います。こういった曲線を感じさせてくれるモデルが、現行のクルマにもっと増えてほしいですね

世界中の有名人がこぞって買い求めたことも、300SLの名声をより高めました。レーシングドライバーのスターリング・モス、ヨルダンのフセイン国王、指揮者のヘルベルト・フォン・カラヤン、コメディアンのトニー・ハンコック、女優のソフィア・ローレン、プロレスラーの力道山、俳優の石原裕次郎と、枚挙にいとまがありません。

300SLと300SLR、似ているのは名前だけ?

メルセデス・ベンツ 300SL(W194)

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この記事の筆者:守屋 健

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