運転した事のある最も古いクラシックカー…ベントリィS11フーパーの思い出

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意外に思われるかもしれませんが、筆者には「試乗する」という経験がそれほどありません。何か珍しい記念品が貰えるキャンペーンとか友人のクルマ選びに付き合った時を除き、どうも買う気もないのにクルマを試乗するという気にもなれないのです。しかも、スバル360とセリカLB以外のクルマを現時点で所有した事が無いため(ちなみにスバル360もセリカLBも不動状態の車両を整備後納車という形で購入しているため、今のところ、購入前に試乗したという経験もありません)、社用車等、職務上で乗ったクルマを除くと、運転した事のあるクルマは実はそれほど多くないと思います。もしかしたら、カレントライフの読者の皆様の方が色々なクルマに乗った経験があるかもしれません。

そんな筆者ですから、本来カレントライフのテーマのコアとなりうる輸入車を運転した経験など片手で数えられるほどしかありません。その一方で、数少ない運転をしたことのある輸入車の一つに、一時期知人が所有していた「1958年型ベントリィS1フーパー」があります。同時にこのベントリィが今のところ、筆者が運転した事のある最も古いクラシックカーでもあります。


▲筆者のセリカと1958年型ベントリィS1

このベントリィ、一時期はクラシックカーイベントにもしばしばエントリーされていました。オーナーである知人も、ただの趣味車としてではなく、市内の仕事の移動は勿論、時には名古屋〜東京往復にも使っていたので、どこかで見たことがあるかもしれません。

ベントリィのオーナーの仕事は世の中の最先端?

このベントリィのオーナーはIT関連の凄腕のSEで、「IT革命」という言葉が流行っていた頃、パソコン初心者の時は困ったときはいつこの方に助けてもらっていました。自宅が比較的近い事もあり、何かあったときにその知人の自宅に行けばすぐその場で直してもらえるということで、メーカー製ではなく、知人に組んでもらったパソコンを使っていた時期もありました。

知人は「秒進分歩」とよばれるIT業界で、常に最新のIT技術の情報収集と技術の習得を欠かしませんでした。面白いもので、知人の話ではエンジニアや科学者は仕事で最先端の技術を追えば追うほど、プライベートではアンティーク趣味や科学とは真逆のオカルトやスピリチュアルな物に惹かれたりする傾向があるそうです。およそ100年前の本物の金時計を愛用し、自宅にはディスクオルゴールまで置いてしまうという骨董収集好きで、休日は神社めぐりなどが趣味ということです。

骨董趣味に興じる知人らしく、自動車もクラシックカー、それも英国車に興味があり、中でもロールスロイスシルヴァーゴーストが大のお気に入りとのことでした。しかし、自動車を所有するには重大な問題がありました。先天的な障害による弱視と学生時代の事故の影響による下半身不随のため、自動車の免許を取得できないという障害を抱えていたのです。ところが10年ほど前、同居して介助している方に運転して貰うという形で1958年型ベントリィS1フーパーを購入するに至ったのです。初めてベントリィを見せてもらった時、リアシートから降りて同居している方がセットした車椅子に乗った知人に発した筆者の第一声は、

「まぁこのクルマならそういう乗り方が本来正しいよね(笑)」

自分で運転できないなら、いっそショーファードリブンカーをショーファー付きで乗ってしまう。こういうクルマの楽しみ方(それもある意味凄く贅沢な)もあるのかと感心しました。……むしろ圧倒されたというべきでしょうか。そしてその漆黒の荘厳な車体を見た瞬間、このクルマだけはどれだけ「英国車乗りによくあるイギリス人のモノマネのクイーンズイングリッシュもどき」と笑われようとも「ベントリィ」ではなく「ベントゥリィ(Bentley)」と呼ばなければならいという衝動にかられました。(だからあえて今回は「ベントリィ」と表記しています)

「黒船」そのものだったベントリィ

当時の筆者は以前の記事にも書いた通りの視野狭窄的な国産クラシック信者でしたが、それでもやはり自分の身近な所にクラシックカーオーナーが増えるというのは嬉しいもので、クラシックカーの車両保険も対応できる保険代理店を紹介したり、クラシックカーイベントに誘ったりもしました。

そして、

「このベントリィが1958年のロンドンモーターショーでショーカーとして展示された車両であり、58年型のS1では3台しか作られなかったフーパー社製のボディ架装車という来歴持つ個体である事」

「ボディがコーチビルドではなく、内製になってしまったシルバークラウド以降より、どうしてもボディをコーチビルダーに外注していた時代の車両が欲しかった(筆者もどうしても排ガス規制とオイルショック前のソレックスキャブレター車が欲しかったのでその辺の心理はよくわかります)」

「本当は戦前型のファンタム3やシルヴァーゴーストが欲しかったけど、それは流石に無理だった(苦笑)」

という話を聞くうちに、筆者自身が、ロールスロイス・ベントリィ(余談ですが「ロールスロイス」もクイーンズイングリッシュ風に表記するなら、正確には「ロールズロイス」とSの発音は濁るのですが)について改めて来歴を調べるようになったり、更にはメルセデスやキャデラックといった各国の高級車ブランドについて調べるようになりました。

このベントリィもまた、後々筆者が今度は縦目メルセデスやグロッサーといったオールドメルセデスに執心する事になる布石だったのでしょう。今思えば、まさにこのベントリィは名実ともに国産クラシックに偏執していた私にとっては「黒船」そのものだったのかもしれません。


▲クラシックカーイベントではいつも人気者でした。そればかりかとあるイベントで、先日のノリタケの森のイベントのシルヴァーゴーストのオーナーでロールスロイス・ベントリィオーナーズクラブの会長からその場で「ウチのクラブはもう老人会みたいになてしまってるから是非こういう若い人に入ってほしい」とその場でクラブ入会の誘いを受けていました

ついにベントリィを運転するチャンスが……しかし

しかし、生憎そのベントリィとの蜜月のカーライフも長くは続きませんでした。2008年9月に突如発生したリーマンショックによる世界的金融危機による影響はその知人の事業にも影響し、資産価値の目減りや売り上げの減少もあり、まだ購入後、一度目の車検も迎えていないベントリィを手放さざるを得なくなった事には心中察するに余り有る物がありました。するとある日、筆者の下にその知人から思わぬ誘いを受けます。

「鈴木さん、今度の金曜日の夜ちょっとあのベントリィを運転してみない?」

という、思ってもみなかった(いや、本当はずっと心の底で願っていました)お誘いを受けました。

「だって鈴木さんずっと運転したがってたし、自分でスバル360のエンジンをバラして直してるし、ソレックスツインカムでパワステ無しのセリカLBを日常使用していて、尚且つ大型一種免許まで持ってるし(実は筆者は中型免許創設前のうちに大型一種を取得しておいたのです)間違いなくウチらの仲間の中では一番昔のクルマの扱い方に詳しいから、多分大丈夫だろうと思うし(笑)」

という言葉を頂いた時は、掛け値ぬきで身に余る光栄と感じたものでした。

そして待ちに待った金曜日、待ち合わせ場所のパーキングへ、この日はあえてセリカではなくスバル360で向かいました。年式こそ違えど、1958年型の超高級車のベントリィS1と1958年発売の日本初の本格的大衆車スバル360、ほぼ同時期に開発されていたであろう全く国も生い立ちも違う両車を比べてみたいという思いもありました。

当日は笑われるかもしれませんが、ジャケットを着て白手袋を着用して「お抱えショーファー」を意識してこのベントリィの運転に臨みました。むしろそのくらいしないとこのクルマの運転は出来ないと思わせるものがあったのです。それでも、

「一応は自分も大型一種免許所持のクラシックカーオーナーであり、1速ノンシンクロのスバル360をダブルクラッチで1速にシフトダウンすることだってできるし、気難しいソレックスでパワステの無いセリカLBを日常使用している。そして、SUキャブで大排気量で低速トルクもあって、オートマチックトランスミッションでパワーステアリングもついてるなら車両感覚さえつかめば動かすくらいなら容易いものだろう」(実は筆者が運転した事のある一番古いクラシックカーが実はMT車ではなくAT車だったというのも因果な話ですが……)

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この記事の筆者:鈴木 修一郎

愛知県名古屋市在住。幼少期より自動車が好きで、物心着く前から関心の対象はニューモデルよりもクラシ...