今日を限りに引退し、陸前高田でスローなカーライフを送りたい……が。

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筆者はクルマに関するさまざまな薀蓄および取材事実に基づく妄想を書きつらねることで、日々の禄を食んでいる者だ。より具体的に言うなら「人々の自動車買い替えマインドを促進するための回し者」と捉えていただいても構わない。

しかし年に一度ほど、そういった活動すべてが心底嫌になり、「……今日を限りに引退しよう。今後もう二度と、輸入車の買い替えを促すような趣旨の文章は書くまい。売れない現代詩でも書きながら、わずかな蓄えと年金で静かに生きていこう」と思うタイミングがある。

それは決まって、家人の実家である岩手県陸前高田市にしばらく滞在し、そして東京へ帰ってきた瞬間のことだ。

「ミニマムな暮らし」のデッカイ価値

岩手県沿岸部にゆかりのない人は「あぁ、陸前高田というと先の震災で大きな被害に見舞われたところですよね。本当に大変でしたね……」というような印象と知識しかないかもしれない。それはもちろんそのとおりで、表面的にも心の奥底的にも、彼の地の人々は今なお、震災のどえらい爪痕を抱えながら日々を生きている。

しかしそれはそれとして、大変素晴らしい土地でもあるのだ。

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東京で生まれ育ったわたくしは最初、そのどえらい田舎っぷりに面食らったが、慣れてみればそんなものはなんてこともない。人々は掛け値なしに「いい人丸出し」であり、勤勉で、メシは旨く、気候も東北地方としては温暖で、クルマでちょっと出かければすぐそこに雄大な自然がある。

もちろん地方ならではの不便さや過疎の問題は厳然とあり、ましてや震災による甚大な被害もあった土地ゆえ、「ここは理想郷だぁ!」などという安易な持ち上げ方はできない。しかしウイスキー「山崎」の広告コピーではないが、人間が生きていくうえで必要な物事に関しては「何も足さない、何も引かない」という境地が、ここ陸前高田にはある気がしてならない。まぁそれは陸前高田市に限らず、日本のINAKA全般に通じる話なのかもしれないが。

地元・東京に感じる強烈な違和感

そんな東北地方での暮らしに1週間で完全に慣れてしまった自分が、生まれ故郷であり現住所でもある東京都に高速道路を使って戻ってくると、都心に近づけば近づくほど「……なんなんだこの土地は」と愕然としてしまう。

虚飾としか言いようのないビルディングの群れ。「それってよく考えれば不要だろ?」としか思えない数々の高額輸入車。その乱暴で不遜な運転。「どこの夜会に行くつもりだ?」と聞きたくなるほど華美に着飾った人々……。

以前は何とも思わなかったそういった事象が気に触って仕方なくなり、「……クルマの不必要な買い替えとか、もうホントどうでもいい。何も足さない、何も引かないサントリー山崎な世界に戻りたい!」と思ってしまうのだ。朝ドラ『あまちゃん』の主人公が、世田谷出身のくせに「オラ北三陸さ帰りてえ!」と言っていたのと同じである。

しかしドラマと違って実際のわたくしは安易に移住するわけにもいかず、移住したところで私にできる仕事もない。だが、現在の虚飾にまみれた生活をシンプルな方向へとダウンサイズすることで、より根源的な暮らしはできるようになるのかもしれない。

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この記事の筆者:伊達軍曹

外資系消費財メーカー日本法人本社勤務を経て、出版業界に転身。輸入中古車専門誌複数の編集長を務めた...